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空間づくり

これからの教育施設に求められるイノベーション・コモンズの考え方と空間設計のポイント

現在、大学は少子化や施設の老朽化といった経営上の問題に加え、アクティブラーニングやデジタル化といった新しい教育スタイルへの対応を迫られています。

こうした状況で注目を集めているのが、キャンパス全体を学生・教職員だけでなく、研究機関や地域、産業界など多様なステークホルダーによる共創活動の場に転換する「イノベーション・コモンズ」という考え方です。

この記事では、イノベーション・コモンズとは何か、そして変化するニーズに応えるための教育施設づくりのポイントをわかりやすく解説します。

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教育施設|ソリューション

大学教育施設を取り巻く環境変化と課題

まず、大学が今どのような状況に置かれているのかくわしく見ていきましょう。

大学の経営環境をめぐる変化

大学を取り巻く経営環境には、大きく2つの変化が起きています。

1つ目は、少子化による学生確保競争の激化です。日本の18歳人口は減り続けており、2040年には2017年と比べて約32万人少なくなる見通しです。この影響は、地方大学においてはとくに深刻で、定員割れや経営困難に陥るリスクが高まっています。
そのため各大学は、特色ある教育プログラムの開発や魅力的な学習環境の整備など、差別化をするための様々な取り組みを進めている状況です。

2つ目は、大学施設の老朽化問題が挙げられます。高度経済成長期に建てられた大学施設の多くは、築30年以上が経過し、老朽化が目立つようになりました。
限られた予算の中で施設をメンテナンスするだけでなく、多様な教育ニーズに対応するための施設環境の転換も求められています。

教育手法と環境の変化

教育の現場でも、様々な変化が生じています。

まず、授業のスタイルは教員が一方的に説明する従来の講義形式から、学生が主体的に参加するアクティブラーニングや課題解決型学習(PBL)へと変わりつつあります。
グループワークやディスカッション中心の授業が増え、自ら課題を見つけて解決策を提案・実施する力やグループで協働する力、コミュニケーション能力といった、社会に出た際にも通用する力を育てることが重視されるようになりました。

同時に、教育のデジタル化も急速に進んでいます。新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が普及し、ICT(情報通信技術)の活用も大学教育の標準となりました。キャンパス内の無線LAN、学習管理システム(LMS)や入学手続きシステム、電子教科書などが多くの大学に導入されています。
また、ICTの活用により場所や時間の制約が軽減された一方で、対面だからこそ生まれる多様な人々の偶然の出会い、コミュニケーションが促すイノベーション創出といった価値が、改めて重要視される動きも活発化しています。

大学教育施設に求められる「イノベーション・コモンズ」

こうした状況を受けて、大学施設には最新の教育手法を取り入れながらもキャンパスに集まる価値を最大化する学習環境が求められています。その課題解決のヒントとして注目されているのが「イノベーション・コモンズ」という考え方です。

イノベーション・コモンズとは

イノベーション・コモンズは、学生、教職員、地域住民、企業関係者など異分野の人々が連携して知識交流しながら新しいアイデアや解決策を生み出す共創拠点のことです。共創を促す特定のスペースをつくるというだけでなく、集中して作業をするスペースや食堂、屋外の環境を含めてキャンパス全体をイノベーション・コモンズに転換させる動きが進んでいます。

従来の「決められた教室で整列して授業を受ける」という固定的なスタイルを超えて、学生がキャンパス内の最適な場所を選び、グループワークや意見交換を通じて多様な人の視点を取り入れる学習スタイルを可能とする点が大きな特徴です。
普段なら出会うことのない人同士の自然な交流は、新しいアイデアや思わぬ協働が生まれやすくなるといわれています。

文部科学省も、地域や社会の課題解決という観点から教育環境の整備を推進しており、具体的に次の4つの重点項目を掲げています。

【キャンパス・施設の共創拠点化に向けての取り組み事項】

DX・GXなど成長分野への対応

デジタル変革や脱炭素社会実現に向けた人材育成・研究を支える環境整備

地域を中心とした産学官連携強化

地域と大学が一体となった人材育成を支える環境整備

多様な主体に開かれた魅力ある環境

学生、教職員、地域住民、産業界など多様な利用者を受け入れる空間づくり

グローバル化への対応

国際競争力のある教育研究環境の整備

イノベーション・コモンズの実現には、「共創」のコンセプトのもとキャンパス環境をどのように変えていくのか、大学全体として検討が必要です。

出典:「我が国の未来の成長を見据えた「イノベーション・コモンズ(共創拠点)」の更なる展開に向けて」の公表について(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/062/1417904_00004.htm

出典:【資料5】イノベーション・コモンズ(共創拠点)の考え方について(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/content/20211001-mxt_keikaku-000018424-5.pdf

イノベーション・コモンズに求められる機能

イノベーション・コモンズへと転換する際には、教育施設に求められる機能も従来のキャンパスから大きく変わります。

これまで当たり前だった黒板と机が整然と並んだ「教室」から、アクティブラーニングや課題解決型学習(PBL)、グループワークなど多様な学び方に対応できる可変的で柔軟な空間づくりが重視されているのです。

学びやすく魅力的な環境は他の大学との差別化にもつながり、学生の確保にも良い影響を与えます。

大学のビジョン・各種計画等や教育研究活動などのソフト面と併せて、施設や設備のハード面を、学生が主体的に学び「共創」の生まれる環境へ進化させることが不可欠です。

イノベーション・コモンズの考え方を取り入れた空間づくりのポイント

イノベーション・コモンズの考え方を取り入れた空間づくりにおける、おもな3つのポイントを見ていきましょう。

自由にレイアウト変更できる設計

必要に応じてグループワークから個人作業、プレゼンテーションやブレインストーミングまで、様々な活動に柔軟に対応できるような空間が求められています。可動式のパーティションやチェアを用いた、用途によってレイアウトを自由に変えられる空間設計がポイントです。

また、課題解決型学習(PBL)の普及に合わせて、少人数での集中的な議論から大人数での発表まで、様々な規模に対応できる空間が必要です。複数回の授業にわたってプロジェクトを進めるため、グループでの議論内容や作成中の資料を次回まで保存し、継続して取り組める環境づくりも不可欠でしょう。

偶然の出会いを生む工夫

企業では社員同士の交流を促すためにカフェスペースやリフレッシュエリアを導入するオフィスが増えていますが、大学でも予期しない出会いを生む空間設計が注目されています。

たとえば、人の流れを意識したレイアウトや、大学内の枠を超えたステークホルダーとの出会いを生みだすスペース、誰でも利用できて集まることのできるエリアの設置が効果的です。カフェのような、ちょっとした相談やワークショップをしやすい場を用意することも、自然な交流を生み出してくれるでしょう。

多彩な交流がキャンパスのさまざまな場所で思わず生まれるような環境づくりが、イノベーション創出のカギとなるのです。

ICT機器の活用

デジタル機器を最大限に活用できる環境づくりも欠かせません。

デジタル技術の普及により、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型授業が行われていますが、円滑な授業運営にはICT機器の活用が不可欠です。文部科学省も「双方向性の確保」を留意点として挙げており、学生同士の議論などを行う場合にはグループメンバー全員が同じ画面を共有し、リアルタイムで画面を編集することで発言が苦手な学生でも議論等に参加しやすくなる効果が見込まれると説明しています。

この環境を実現するためには、カメラやモニターなどのICT機器を適切に導入する必要があります。この環境整備は、Web会議を活用する場面にも有効です。

加えて、プレゼンテーションや配信など研究のアウトプットを行うためのICT設備も整えるとより効果的でしょう。

出典:大学・高専における遠隔教育の実施に関するガイドライン(文部科学省)

https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000234679.pdf

教育環境づくりの事例 3選

イトーキでは、長年の学習・教育への取り組みに加え、企業のオフィス空間設計で培った豊富な知見と技術を教育分野に応用し、学生の能力を引き出す教育環境づくりをご支援しています。

ここからは、イノベーション・コモンズの考え方を取り入れた空間を実現するための具体的なアプローチを、実際の事例を通してご紹介します。

学校法人尚絅学園 武蔵ヶ丘キャンパス4号館

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2023年4月、尚絅大学に新設されたこども教育学部 こども教育学科は、将来の保育現場のリーダー養成を目指し、特別支援教育を含めた高い専門性と実践力を養う教育が特徴です。こうした独自のカリキュラムに対応するために、新学部校舎は武蔵ヶ丘キャンパスの既存棟をリニューアル。シンボル的な外観は残して内装・設備を刷新、ICT機器を活用した次世代環境へ生まれ変わっています。

学校法人尚絅学園 武蔵ヶ丘キャンパス4号館 納入事例掲載ページはこちら 

学校法人明治大学 和泉ラーニングスクエア

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明治大学は新しい時代の新しいキャンパスのあり方を模索してきましたが、2022年3月、和泉キャンパスに地上8階建ての和泉ラーニングスクエアを新築しました。和泉キャンパスは6つの文系学部1〜2年生と大学院生が学ぶフレッシュなキャンパスです。「同級生や先輩と、学び合える空間」「リモート授業に、没頭できる空間」「キャンパスにいながら、安らげる空間」多様な居場所の可能性を建物内外の空間で実現している、学生の個の力を伸ばす教育棟です。

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名古屋大学 エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs)

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2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学天野浩教授がセンター長を務める窒化ガリウムの研究開発拠点、エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs)。C-TECsでは、研究室の垣根を越えて分野横断的に研究を推進する環境が整備されました。世界と闘うオンリーワンの研究施設を目指した施設環境は、国立大学法人では初の日経ニューオフィス賞ニューオフィス推進賞受賞にもつながっています。

名古屋大学 エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs) 納入事例掲載ページはこちら

イノベーション・コモンズの構築はイトーキにおまかせください

日本で初めて一般家庭向けのスチール製デスクを発売したイトーキは、長年「学び」に向き合ってきました。その取り組みは家庭向けの製品にとどまらず、教育施設の空間づくりにまで及んでいます。

これまで積み重ねてきた「学習・教育」への取り組みに、オフィス空間づくりの先進ノウハウを掛け合わせることで、イトーキは大学の教育環境づくりを万全にご支援します。変わりゆく時代と教育施設の在り方に合わせた教育環境づくりは、ぜひ一度イトーキにご相談ください。

ITOKI DESIGN HOUSEで次世代の教育空間をご体感ください

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イトーキでは、イノベーション・コモンズの可能性を実際に体感いただける場として、ITOKI DESIGN HOUSEをご用意しています。ITOKI DESIGN HOUSEは、ショールームでありながら、実際に社員の働く姿を間近で見学できるイトーキの本社オフィスです。

個人の作業スペースとしての機能と、コミュニケーションのための開かれた空間をゆるやかにつなぐ多用途エリアや、開放感を保ちつつ誰もが話しやすい打ち合わせスペース、ICT機器を自然に空間デザインへ組み込んだ会議室、さらには運用面での工夫など、オフィスでありながら教育施設の設計に通ずる空間づくりのヒントが満載です!実際の空間設計をイメージしやすいことから、すでに多くの学校関係者の方にご見学いただいています。

見学は完全予約制で承っておりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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