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空間づくり ワークスタイルラボラトリー

生産性向上を支えるオフィスとは? 
成果を生み出す「活動支援」の考え方

第1回のコラムでは、人口減少が進む中、企業には人材をどれだけ確保するかだけでなく、限られた人材の力をいかに引き出し、成果につなげるかという視点が求められているとお伝えしました。
そして、これからのオフィスには人的資本(社員一人ひとりが持つ知識・スキル・意欲)を活かす経営基盤として、「活動支援」「成長支援」「関係性支援」という3つの役割が必要であると整理しました。

今回は、その一つである「活動支援」を、生産性向上の観点から掘り下げます。
活動支援とは、社員が成果を生み出すまでに行う一連の活動を捉え、それぞれが滞りなく進むように環境を整えることです。単に快適な場所を用意するだけでは、十分とはいえません。

では、成果につながる活動を支えるために、オフィスには何が求められるのでしょうか。
本コラムでは、働き方とオフィスの関係を見直しながら考えていきます。

このコラムの執筆者

PROFILE

二之湯 弘章
Hiroaki Ninoyu

株式会社イトーキ 執行役員 中央研究所上席研究員

1990年イトーキ入社後、デザイン設計を中心に様々なオフィス・公共施設構築の業務に携わる。ワークショップ開催からプログラミング、コンセプト立案、デザイン設計、現場監理まで一貫して行うことで満足度の高い施設づくりを得意とする。自社オフィスの企画・設計に携わる。日経ニューオフィス賞他、デザインアワード入賞多数。

活動支援とは、成果が生まれる流れを支えること

社員の活動を支えるオフィスづくりというと、集中ブースやWeb会議室、ラウンジなど、自席や会議室だけでは支えきれない活動のためのスペースを増やすことを思い浮かべるかもしれません。

もちろん、働く人が業務に応じて場所を選べることは重要です。しかし、本当に大切なのは、スペースの種類や数の多さではありません。自社では、どのような活動を経て成果が生まれているのか。そして、その一連の流れをオフィスがどこまで支えられているかです。

活動に応じて働く場所を選ぶという考え方は、「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」としても知られています。ABWも本来、多様なスペースを用意すること自体が目的ではなく、活動に合わせて働き方を選ぶ考え方です。

この考え方は活動支援にも通じますが、ここでとくに大切にしたいのは、一つひとつの活動を支えるだけではなく、それらの活動が妨げられないよう、成果が生まれるまでの一連の流れ、つまり「活動のプロセス」を支えることです。

従来のオフィスが果たしてきた役割と課題

従来のオフィスは、企業活動を支える重要なインフラとして、生産性、効率性、快適性の向上を目指して整備されてきました。

個人席では資料作成や情報処理を行い、会議室では会議や打ち合わせを行う。この基本構成は、日常業務を安定して進める土台となっています。

一方で、働く人の活動という視点から見直すと、別の課題も見えてくるものです。日本のオフィスで広く採用されている島型対向式(机を向かい合わせに並べて「島」をつくる配置)のレイアウトでは、個人作業は自席、複数人で行う活動は会議室というように、活動を支える場所が2つ程度に集約されやすくなります。その結果、企画書の作成、電話、Web会議、相談、すり合わせ、ブレインストーミング、面談、教育、休憩といった性質の異なる活動が、自席と会議室のいずれかで行われることになります。

一つの企画が生まれるまでに必要な活動

では、さまざまな活動を自席と会議室で行うことには、どのような難しさがあるのでしょうか。「新しい企画を立案する」という仕事を例に考えてみましょう。

まず、メンバーが知識や経験を持ち寄り、アイデアを出し合います。次に、案を絞り込むために少人数で相談し、その後、一人が集中して企画書にまとめます。さらに、試案を誰かに聞いてもらい、反応や助言を受けて修正し、最後にプレゼンテーションを行います。

このように、ひとつの企画を生み出す過程にも、発散、相談、集中、共有、改善、発表という異なる活動が含まれています。それぞれの活動に適した人数、スタイル、音環境、集中度、設備、時間の使い方は異なります。

これらの活動をすべて自席や一般的な会議室だけで行おうとすると、周囲への配慮や場所の確保に余計な負担がかかり、本来の活動に集中できないこともあります。また、周囲の会話や電話などは、集中が必要な活動そのものを中断させる要因にもなってしまいます。

「中断」が仕事の流れに与える影響

仕事中の「中断」は、集中を必要とする活動を進めるうえで見過ごせない問題です。実際に、オフィスワーカーの業務がどのように中断されているかを調べた研究があります。

米カリフォルニア大学アーバイン校のグロリア・マーク氏らが、米国企業で働く24人の仕事ぶりを延べ700時間以上にわたって観察した研究では、一つのまとまった仕事に取り組み続けられる時間は平均約11分で、仕事の57%は途中で中断されていました。さらに、中断された仕事に同じ日のうちに戻るまでには平均25分26秒かかり、その間に平均2つ以上の別の仕事を挟んでいたことも報告されています。
電話や会話が行き交う自席では、深い集中を要する作業が途中で中断されることもあります。集中できる場所を整えることは、単なる快適性の問題ではなく、仕事の流れを守るという生産性の問題といえるでしょう。

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出典:Gloria Mark, Victor M. Gonzalez, Justin Harris「No Task Left Behind? Examining the Nature of Fragmented Work」(2005)
https://dl.acm.org/doi/10.1145/1054972.1055017

活動を支えるオフィス環境と生産性実感

出典:イトーキ「日本国内ホワイトカラーのワークスタイル実態調査」(2022)

イトーキは2022年、国内のホワイトカラー4,600人を対象に、オフィスでどのような活動が支援されているかと、働く人の生産性実感との関係を調査・分析しました。

対象としたのは、「1人での集中業務」「会話をしながらの1人業務」「Web会議」「2人作業」「アイデア出し」「情報共有」「情報整理」「対話」「休息」の9つの活動です。

その結果、9つすべての活動が支援されている人では74%が「自分は生産性の高い仕事ができている」と回答したのに対し、一つも支援されていない人では18%にとどまりました。また、支援される活動の数が増えるにつれて、この割合はおおむね高くなっています。
この結果は因果関係を直接示すものではありませんが、オフィスが多様な活動を支えることと、働く人の生産性実感との間に明確な関連がみられることを示しています。

大切なのは「活動のプロセス」に沿った場づくり

先ほどの調査では、支援されている活動の数が多いほど生産性実感が高い傾向がみられました。ただし、単純にスペースを増やせばよいというわけではありません。

活動支援を考えるときにまず大切なのは、「どのようなスペースをつくるか」ではなく、「自社ではどのような活動のプロセスを通じて価値が生まれているのか」を捉えることです。

実際のオフィス計画では、アンケートなどで寄せられた要望をもとに、「集中スペースを何席、コミュニケーションスペースを何席」といったように、スペースの種類や数をどう組み込むかから検討を始めることも少なくありません。もちろん、働く人の要望を踏まえることは大切です。しかし、自社の仕事の進め方を踏まえずにWeb会議室、カフェスペースなどを整備しても、十分に活用されないことがあります。

自社の仕事を必要な活動に分解し、それぞれに適した場を整える。そして、必要な場がないことで活動の流れが途切れることのないよう、一連の活動を支える環境をそろえておくことこそが重要なのです。

働き方とオフィスの不一致を見直す

出典:イトーキ「オフィス意識調査レポート」(2024)

イトーキ中央研究所が2024年に実施したオフィス意識調査(n=5,235)では、現在の働き方とオフィスが「とても合致している」「合致している」と回答した人は28.8%でした。「やや合致している」を含めても54.8%にとどまり、半数近くは働き方とオフィスの十分な合致を感じていないことがわかります。

さらに、生産性実感との関係を見ると、「生産性の高い仕事ができている」と感じている人のうち、83.5%が働き方とオフィスが「合致している」(「とても合致している」「やや合致している」を含む)と回答しました。一方、「生産性の高い仕事ができている」とは思わない人では、同様に回答した割合は31.5%にとどまりました。

この結果からも、オフィスのスペースや設備を整えるだけではなく、そこで行う活動とオフィス環境がどれだけ合っているかが重要だといえます。

活動を支援するオフィスを実現する3つのステップ

活動を支援するオフィスを実現するには、3つのステップに分けて考えると整理しやすくなります。

1. 成果を高めるうえで重要な活動を「見極める」

まず、成果が出ている業務やプロジェクトを振り返り、成果が生まれるまでの仕事の流れを、アイデアを出す、相談する、判断する、集中する、共有する、発信するといった活動に分解します。

次に、分解した活動のうち、どこで仕事が滞っているのかを確認します。
たとえば、相談相手が見つからない、意思決定に時間がかかる、集中できる場所がない、情報が共有されないなど、仕事が滞る原因はさまざまです。同じ「生産性が上がらない」という問題でも、原因によって必要な環境は異なります。

こうした仕事の流れや課題をワークショップやヒアリングを通じて整理し、重点的に支えるべき活動を明確にします。

2. 活動を支える場を「デザインする」

次に、見極めた活動について、何人でどのような形で行うのが適しているかを整理します。

たとえば、同じ複数人で行う活動でも、自由にアイデアを出しあう場合と意見をすり合わせて意思決定をする場合とでは、求められる環境が異なります。

このように、人数に加えて活動の目的や進め方にも目を向け、音環境や設備、利用時間なども踏まえて、それぞれの活動に適した場をデザインします。

3.活動に応じて場所を選べるように「仕組み化する」

整えた場の効果を最大限に引き出すには、社員が業務の内容に応じて適切な場所を選び、使い分けられることが重要です。

そのためには、利用時間や予約方法などのルールを整えるだけでなく、それぞれの場所の用途や利用状況を分かりやすくするなど、社員が自分の判断で場所を使い分けやすい仕組みを整えることも大切です。

継続的な見直しでオフィスの価値を高める

3つのステップで整えたオフィスも、実際の使われ方を確認し、見直しを重ねることで、さらに活動を支えやすい環境へと改善していくことができます。

ワークショップやヒアリングで働く人の認識や意見を把握するだけでなく、スペースの稼働状況、オフィス内での滞在・移動状況、利用者の評価などのデータを組み合わせることで、想定した活動が実際に行われているかを検証できます。

こうしたデータをもとに3つのステップを循環させることで、オフィスは固定された完成品ではなく、継続的に改善される経営資源になります。

まとめ

人口減少が進む中、特定の優秀な人の工夫や頑張りだけに成果を頼ることはできません。限られた人材で生産性向上を目指すには、成果が生まれる活動の流れを明らかにし、社員一人ひとりが力を発揮できる環境を整えることが重要です。

  • 自社で成果が生まれるまでの活動のプロセスを明らかにすること
  • それぞれの活動に適した場を整え、一連の流れが途切れないように支援すること
  • 実際の利用状況を踏まえ、運用や環境を継続的に見直すこと

活動を支援するオフィスで目指すのは、単に快適なスペースを増やすことではありません。「自社の価値創造プロセスを空間と運用に実装し、社員が成果を生み出す一連の活動を、速く、正確に、繰り返し実践できる状態」をつくることです。

つまり、活動支援への投資は、単なる場所への投資にとどまりません。生産性向上を支え、価値創造を組織として再現できる状態をつくるための投資なのです。

次回は、現在の成果を生む「活動支援」から一歩進み、将来の成果を生み出す人を育てる「成長支援」について考えていきます。

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