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空間づくり ワークスタイルラボラトリー

これからのオフィス投資とは? 
人口減少時代になぜオフィスへの投資が重要なのか

日本企業を取り巻く経営環境は、大きな転換点を迎えています。その背景の一つが、今後さらに進む人口減少です。こうした中、人材の採用や定着は多くの企業にとって身近な課題となっています。すでに「採用や離職防止にオフィスが効く」という文脈で多くのメディアにも取り上げられています。 しかし、企業が向き合うべき本質的な課題は、それだけではありません。

では、こうした時代に、オフィスは企業の成長にどのような役割を果たすのでしょうか。

本記事では、人的資本経営の観点から、なぜ今オフィスへの投資が重要なのか、これからのオフィスに求められる役割とともに考えていきます。

このコラムの執筆者

PROFILE

二之湯 弘章
Hiroaki Ninoyu

株式会社イトーキ 執行役員 中央研究所上席研究員

1990年イトーキ入社後、デザイン設計を中心に様々なオフィス・公共施設構築の業務に携わる。ワークショップ開催からプログラミング、コンセプト立案、デザイン設計、現場監理まで一貫して行うことで満足度の高い施設づくりを得意とする。自社オフィスの企画・設計に携わる。日経ニューオフィス賞他、デザインアワード入賞多数。

人材を取り巻く経営環境の変化

人材の採用や定着は、多くの企業にとって重要な経営課題となっています。まずは、生産年齢人口の減少によって、人材を取り巻く環境がどのように変わるのかを見ていきましょう。

人材確保の現状と生産年齢人口の減少

厚生労働省の「労働経済動向調査(令和7年5月)」によると、正社員等が「不足している」と回答した事業所は47%に上り、「過剰」と回答した事業所は3%にとどまります。また、2025年6月末時点で、募集しているものの人材を確保できていない未充足求人は135万9,500人に達しています。必要な人材を確保することは、多くの企業にとって難しい課題となっていることがわかります。

さらに今後は、働き手の中心となる生産年齢人口も大きく減少する見込みです。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、15~64歳の人口は、2020年の7,509万人から2050年には5,540万人へ、約2,000万人減少します。現在すでに人材の確保が難しい中、働き手の中心となる人口も減っていくことで、人材獲得をめぐる競争はさらに厳しくなるでしょう。

参考:厚生労働省「労働経済動向調査(令和7年5月)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keizai/2505/

参考:厚生労働省「令和7年上半期雇用動向調査結果の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/26-1/dl/gaikyou.pdf

変わる社会構造

2050年に見込まれている生産年齢人口5,540万人という水準は、1955年(昭和30年)頃とほぼ同じですが、一方で、働く世代が支える高齢者人口(65歳以上)は当時とは大きく異なります。

1955年の高齢人口が約475万人であったのに対し、2050年には約3,888万人に達すると見込まれています。つまり、生産年齢人口は昭和30年頃と同程度の水準まで減少する一方で、その世代が支える高齢者人口は大きく増えることになります。働く世代の人口規模は近くても、支える社会の大きさはまったく異なるものになっていきます。

また、生成AIの発達により、業務の自動化にとどまらず、商品企画、顧客理解、意思決定、業務改善といった領域で、人の判断や創造力が拡張されていきます。だからこそ今後は、「人をどれだけ確保できるか」だけでなく、限られた人材がAI等の先進技術を活用し、どれだけ高い価値を生み出せるかが、企業の競争力を左右していくことになります。

参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
https://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2023/pp2023_gaiyou.pdf

人材確保だけでなく、一人ひとりの力を活かす時代へ

これからの企業には、成長の手段として「人をどれだけ確保できるか」だけでなく、限られた人数で「いかに成果を上げるか」という考え方が、これまで以上に重要になります。

採用によって必要な人材を確保し、そうした人材に長く活躍してもらうことは、企業の成長に欠かせません。しかし、採用と定着だけで人材課題を解決することには限界があります。

一部の優秀な人材や特定のキーパーソンだけに頼るのではなく、誰もが力を発揮して価値創造を担い、そこで生まれた成果を組織全体で再現できる状態をつくることが必要になるのです。

そして、その力が発揮される制度や環境をどう整えるかが、これまで以上に重要になるでしょう。

オフィスに求められる役割の変化

そんな中改めて考えたいのが、働く環境の一つであるオフィスです。働き方や仕事のあり方の変化に伴い、オフィスに求められる役割も見直していくことが重要です。

業務を行う場所から、人の力を引き出す環境へ

従来のオフィスは、企業活動を支える重要なインフラとして整備されてきました。

個人席や会議室、コミュニケーションスペース、書類保管スペースなどを用意し、社員が日々の業務を行うための環境を提供することが、オフィスづくりの大きな役割でした。こうした環境を整えるうえでは、生産性向上や快適性に加え、面積効率、座席数、賃料、管理のしやすさといったファシリティの面が重視されてきました。

しかしこれからのオフィスの価値は、それだけでは語れません。これからのオフィスには、ファシリティの面に加え、一人ひとりの力を引き出し、価値創造を支える場としての役割が求められます。

オフィスだからこそできること

人口が減少する時代に企業が成長を続けるためには、限られた人材でいかに価値を生み出していくかが重要になります。

その中で、オフィスには大きな可能性があります。オフィスは、その企業が大切にしている価値創造のプロセスを、目に見えるカタチにできる場所です。どのように人が集まり、どのように情報を共有し、どのように議論し、どのように新しい価値を生み出していくのか。こうした本来は見えにくい企業独自のプロセスが、空間のつくり方やファシリティに反映されます。

そして、そのオフィスで働く人は、企業が重視する価値創造のあり方を日々体験することができます。オフィスは、その企業らしい価値のつくり方を体感し、実践するための場です。さらに、その体験を重ねることで、働く人は企業独自の考え方や協働の仕方を暗黙知として身につけ、個人としても成長していくことができます。

人が減る時代だからこそ、オフィスには、個人の成長を促し、組織の力を引き出し、企業の価値創造力を高める役割があります。これは、これからの経営を支える重要な基盤になるはずです。

なぜオフィスへの投資が経営投資になるのか

ここで重要になるのが、人的資本経営の観点です。人材と、その力を引き出す環境との関係から、オフィスへの投資が持つ意味を考えていきます。

人材を企業価値の源泉と捉える「人的資本経営」

人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を引き出すことで、中長期的な企業価値の向上につなげる経営のあり方です。

ただし、人的資本の価値は、人材を確保するだけで十分に引き出されるわけではありません。一人ひとりが持つ知識、経験、創造性、判断力が発揮され、育ち、他者と結びつくことで個人の力が組織の成果へとつながり、企業の競争力になるのです。

参考:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html

人の力を引き出す環境への投資

人的資本の価値を引き出すために必要なのは、採用や研修だけではありません。人が力を発揮しやすい環境、成長を促す環境、知識や経験が共有される環境、人と人との関係性が育まれる環境を整えることも、人的資本を価値につなげるための重要な投資です。

オフィスは、まさにそうした環境を形にする経営基盤です。オフィスは人材そのものではありません。しかし、人が力を発揮し、成長し、互いにつながる環境として捉えれば、オフィスへの投資は単なる施設投資ではなく、人的資本を価値創造につなげるための経営投資となるはずです。

オフィス投資で大切にしたい3つの視点

出典:イトーキ「オフィスワーカーの意識調査2025 -多様化する働きがいと出社価値の再定義に向けて-」

人的資本を最大限に活かすために、オフィスにはどのような役割が求められるのでしょうか。ここでは、その役割を「活動支援」「成長支援」「関係性支援」の3つに整理して考えていきます。

この3つの視点は、働く人に「働きたいと感じる時」「働き続けたいと感じる時」「働きたくないと感じる時」を尋ねたアンケート結果を踏まえ、オフィスに求められる支援を整理したものです。

出典:イトーキ「オフィスワーカーの意識調査2025 -多様化する働きがいと出社価値の再定義に向けて-」
https://workstyle.itoki.jp/docs/itoki_officeworker_survey_2025_Productivity.pdf

活動支援:業務上の成果を生みやすくする

活動支援とは、業務上の成果を生み出しやすい環境を整えることです。従来の日本のオフィスでは、業務の多くが自席と会議室を中心に行われてきました。しかし、仕事は一つの活動だけで完結しません。集中作業、Web会議、相談、ブレインストーミング、知識共有、情報整理など、実際の仕事は多様な活動の連続で成り立っています。

活動支援で大切なのは、単にスペースの種類や数を増やすことではありません。自社ではどのようなプロセスを通じて価値が生まれるのかを捉え、それぞれの活動に適した場を整えることです。働く人が業務の内容に応じて環境を選べるようにすることで、一人ひとりの力を発揮し、成果につなげやすくなります。

成長支援:日常の仕事を通じた学びを支える

人材の成長は、研修の場だけで起こるものではありません。むしろ日常業務の中で、相談し、教え合い、他者の仕事を観察し、振り返ることによって、多くの学びが生まれます。

オフィスには、こうした日常の学びを支える役割があります。一人で深く考える、周囲と相談しながら理解を深める、他者との関わりから刺激を得るなど、仕事を通じて学び、成長できる環境を整えることが重要です。

さらに、個人やチームが得た知識や経験を共有し、組織に広げていくことも欠かせません。こうした環境があることで、人材育成は個人任せではなく、組織として継続的に人を育てる取り組みへとつながっていきます。

関係性支援:人のつながりを組織の力へ変える

一人ひとりが高い能力を持っていても、それだけで組織の成果が生まれるわけではありません。異なる部門、専門性、経験を持つ人がつながり、対話し、協働することで、新しい価値が生まれます。一方、組織が大きくなるほど部門間の壁は厚くなり、誰が何をしているのかが見えにくくなることで、連携不足や機会損失が生じやすくなります。

オフィスには、人と人との関係性を育み、協働を支える役割があります。関係性支援で大切なのは、単に人が集まる場を用意することではありません。「出会う」「話す」「知る」「関係性を継続する」という一連の流れを支えることです。

偶発的に顔を合わせ、対話を通じて互いの仕事を知り、そこで生まれたつながりを継続的な協働へと発展させる。こうした環境を整えることで、個人と個人のつながりは、組織の力へと変わっていきます。

まとめ

人口減少が進む中、企業に問われているのは、人をどれだけ確保するかだけではなく、限られた人材の力をいかに引き出し、成果につなげるかということです。そのため、オフィスも単なる勤務場所から、人的資本を活かす経営基盤へと役割を広げていく必要があります。

  • 仕事の内容に合った環境で、一人ひとりが力を発揮できること
  • 日々の仕事を通じて学び、成長できること
  • 人と人とのつながりが育まれ、組織の力へとつながること

こうした状態を支えるのが、「活動支援」「成長支援」「関係性支援」という3つの視点です。働く人の活動や成長を支え、人とのつながりを組織の力へと変えていく。これからのオフィスへの投資は、空間や設備を整えるだけでなく、人的資本を企業の価値創造につなげるための経営投資といえるでしょう。

次回以降は、活動支援を「生産性向上」、成長支援を「人材育成」、関係性支援を「社内コミュニケーション」というテーマから掘り下げ、オフィスが果たす役割を考えていきます。

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