2026年10月14日
異なる経験×AIが、可能性を飛躍させる。『ITOKI OFFICE AI AGENTS』開発チームの挑戦
AIの進化によって、私たちの仕事や働き方は大きく変わろうとしています。前編では、AIによってオフィスや私たちの働き方がどう変わっていくのか、イトーキが描く未来の働き方と、その実現に向けた挑戦を紹介しました。
一方、AIが変えるのは、オフィスだけではありません。これまで培ってきた経験や専門性にAIを掛け合わせることで、その強みを新たな領域で活かしたり、仕事の幅を広げたりする可能性も生まれています。
イトーキでは2026年、AIを経営の中核に据える「AI経営」を本格始動。AIを一部の専門人材だけが扱うものではなく、社員一人ひとりが活用し、新たな価値を生み出していくことを目指しています。
そのなかで、オフィスに関するさまざまなデータをAIで分析し、オフィスの課題解決や継続的な改善を支援する「ITOKI OFFICE AI AGENTS」の開発に取り組んでいるのが、今回紹介する3人です。システム開発、オフィス営業や人事、データサイエンスなど、歩んできたキャリアはさまざま。それぞれが異なる領域で培ってきた経験や専門性を持ち寄り、AIと掛け合わせながら開発に取り組んでいます。
異なる経験とAIが掛け合わさることで、できることはどう広がっていくのか。3人のキャリアと試行錯誤から、AI時代に新しい一歩を踏み出すヒントを探ります。
株式会社イトーキ ソリューション事業開発本部 ソリューション開発統括部 プロダクト開発部 部長
伊藤 謙太郎
大手SIerでシステム開発を経験。流通小売の新規事業立ち上げを経て2024年にイトーキへ入社。AIを活用したオフィスソリューションの企画・開発を担う。
株式会社イトーキ ソリューション事業開発本部 ソリューション開発統括部 プロダクト開発部 AI開発チーム
酒井 美帆
2012年新卒入社。オフィス営業、人事、ABWコンサルティング、データ分析サービス「Data Trekking」の開発などを経て現職。オフィス業界の知見をもとに、AIソリューションの企画を推進する。
株式会社イトーキ ソリューション事業開発本部 ソリューション開発統括部 プロダクト開発部 AI開発チーム
ファム ニュン
ハノイ工科大学でソフトウェアエンジニアリングとデータサイエンスを学び、2025年1月に新卒入社。データ処理・実装を担当。
- 本文中の所属部署・役職・制度等は取材当時の情報です。
まずは自分で考える。未知の領域を学ぶためのAI活用 ―― 伊藤謙太郎
――まず伊藤さんは、現在どのような役割を担っているのでしょうか?
伊藤:私はプロダクト開発部の部長として、お客様や社内の声を聞きながら、チームとして何をつくるのかを考え、開発につなげていくことが主な役割です。
例えば「Facility Portfolio AI」は、複数拠点の利用実態を立体的に分析し、最適な面積・席数・部門配置・コスト構造を算出するとともに、組織変更や働き方の変化を踏まえた拠点・フロア構成をシミュレーションするAIエージェントを組み込んだソリューションです。このほか、オフィスの課題や改善ポイントを抽出する「Workplace Insight AI」や、センサーとアプリを組み合わせて空間の効率的な利用を支援する「Space Matching AI」などの開発にも取り組んでいます。
まだ開発中の段階ですが、すでにプロトタイプをお客様に見ていただき、「どんな場面で使えそうか」「どんな機能が必要か」といった意見をいただきながら、改善を重ねています。
――もともとオフィスや働き方を専門にしていたのでしょうか?
伊藤:いえ、もともとは大手SIer※で、金融や小売の大規模システム開発に携わっていました。その後、流通・小売の事業会社でCRMやWebマーケティング、ECなどを経験するなかで、データを活用して人の行動を変えていくことに興味を持つようになりました。
イトーキに入社したのも、その経験がきっかけです。データを起点にリアルな空間や人の行動を変えていくという考え方が、イトーキが掲げる「Office 3.0」※と重なると感じました。
システムやデータの経験はありましたが、私にとってオフィスは専門外の領域でした。入社した当初はほとんど知識がなかったので、詳しい人に話を聞いたり、分からないことをAIに聞いたりしながら学んできました。
――未知の領域を学ぶうえで、AIはどのように活用していますか?
伊藤:AIを使えば、知らない領域についてもすぐに答えを得ることができます。ただ、返ってくる答えの質は、こちらがどんな問いを投げかけるかによって大きく変わります。だからこそ、AIにすぐ答えを求めるのではなく、まずは自分で考えることを大切にしています。
人に質問するときも、答えそのものを教えてもらうのではなくヒントをもらい、自分なりに問いを立てながら、AIを使ってさらに深掘りしていきます。
AIによって、知らない領域について調べ、理解し、自分の知識にしていくまでのスピードは大きく変わりました。
一方で、これまで培ってきた経験も今の開発に活きています。私はエンジニアですが、開発と並行して、お客様と直接向き合う場面にも数多く関わってきました。そのなかで、相手の立場から考えることを大切にしてきました。
技術的にできることが増えても、それがお客様にとって本当に必要なものとは限りません。どれだけ高度なものをつくっても、実際に使う場面がイメージできなかったり、抱えている課題の解決につながらなかったりすれば意味がない。だからこそ、「何がつくれるか」ではなく、「誰の、どんな課題を、なぜ我々が解決するのか」から考えることを意識しています。
- SIer(エスアイヤー):企業の業務システムなどについて、設計・開発から導入、運用までを支援する事業者のこと。
- Office 3.0:データを活用し、働き方やオフィス空間を継続的に最適化していく考え方。
「自分にはできない」を越えて。AIが広げた新たな挑戦 ―― 酒井美帆
――酒井さんは、現在どのような役割を担っていますか?
酒井:私はエンジニアではないので、開発実務というより企画を担当することが多いです。これまでオフィス営業やABWコンサルティング※などに携わってきた経験を活かして、「お客様が何に困っているのか」「どんな機能が本当に必要なのか」を考えながら、開発メンバーと一緒にソリューションを形にしています。
大学では労働社会学を専攻し、日本企業の働き方に興味を持っていました。イトーキに入社してからは、オフィス営業、人事、ABWコンサルティングなどを経て、オフィスデータの可視化・分析の構想(後の「Data Trekking」)の立ち上げをきっかけに、ソリューション開発部へ異動しました。
──開発はもともと専門外だったんですね。
酒井:そうですね。以前からプログラミングに興味があって、何度か言語を勉強したことがあるのですが、そのたびに挫折していました。自分でコードを書いて何かをつくることには、かなり高いハードルを感じていたんです。
でも今は、作りたいものの構想があれば、AIと対話しながらコードを書いてもらい、実際に形にすることができます。分からないことがあっても、その場で質問しながら進められる。これまで「自分にはできない」と思っていたことにも、まず挑戦してみようと思えるようになりました。
もちろん、AIがあれば何でもできるわけではありません。開発者の話を聞くときには、専門用語をそのまま覚えるのではなく、「要するにどういうことなのか」を自分なりに理解することを意識しています。
例えば「IPアドレス」なら「インターネット上の住所」と置き換えてみる。AIにも聞きながら、自分が理解できるところまでかみ砕いていくことで、少しずつ知識を広げています。
――一方で、これまで経験してきた仕事も現在の開発に活きていますか?
酒井:そう思います。システム構築など、実作業としての開発経験はありませんが、オフィス営業や人事、ABWコンサルティングなど、さまざまな立場からオフィスや働き方に関わってきました。
例えば新しいものを企画するときも、「お客様の総務担当者ならどう考えるだろう」「デザイナーならどこを気にするだろう」と、複数の立場から想像することができます。
以前はキャリアに一貫性がないように感じることもありました。でも今振り返ると、一見バラバラに見えた経験が、新しい領域に挑戦するときの自分の強みになっています。
- ABW:「Activity Based Working(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」の略。働く人が仕事内容に合わせて、最も生産性高く働ける場所や時間などを自ら選択する働き方。
専門性を武器に、ベトナムから日本で新たな挑戦を ―― ファム・ニュン
――ニュンさんは、チームのなかでどのような役割を担っていますか?
ニュン:私は主にデータ処理や実装を担当しています。オフィスから得られるデータを整理し、「このデータから何が分かるのか」「どんな課題解決に活かせるのか」を考えながら、分析やアプリ開発につなげています。
出身はベトナムのハノイ工科大学で、データサイエンスを専攻し、統計学やプログラミング、AIなどを学んできました。3人のなかでは、現在の仕事に最も近いことを大学で学んできたと思います。
――大学卒業後は、ベトナムを離れて日本で働く道を選んだんですね。イトーキとは、どのように出会ったのでしょうか?
ニュン:ベトナムで開催された企業説明会にイトーキが参加していて、そこで初めて会社を知りました。その後、YouTubeでイトーキの動画を見て、どんな会社なのかを知るうちに、より興味を持つようになりました。
その後、日本でのインターンにも参加しました。実際にイトーキで働く人たちと接したり、インターンプログラムを経験したりするなかで、大学で学んできたデータサイエンスの知識を活かして、より良いオフィスづくりに関わりたいと思うようになったんです。それが、イトーキで働きたいと思ったきっかけです。
ただ、オフィスや働き方は、大学で専門的に学んできた領域ではありません。イトーキに入社してから新たに学ぶことも多く、大学で培ったデータ分析の知識を活かしながら、オフィスについての知識を広げ、開発に取り組んでいます。
――仕事でもAIは活用していますか?
ニュン:はい。大学でデータサイエンスやAIを学んでいましたが、実際の仕事では、大学で学んだことだけでは分からないこともたくさんあります。
以前は、開発中に分からないことやバグがあると、原因を調べて解決するまでに時間がかかっていました。今はAIに相談しながら原因を探したり、必要な情報を集めたりできるので、試行錯誤のスピードが上がっています。
それでも大切なのは、自分で「なぜこうなるのだろう?」と考えることだと思います。AIから答えを得て終わるのではなく、そこからさらに調べてみる。そうすると新しい疑問が生まれて、また学びが広がっていきます。
また、大学で学んだデータサイエンスの知識は、現在の仕事の土台になっています。
データは、集めるだけでは価値になりません。大量のデータのなかから必要な情報を整理し、そこにどのような傾向があるのか、何が課題なのかを読み解いて、判断や改善につなげていく必要があります。
大学で学んだ統計学やプログラミング、AIの知識を組み合わせながら、データを「使える情報」に変えていくことが、私の役割だと思っています。
AIだけでは生まれない。異なる専門性を掛け合わせる価値
――ここまで伺ってきたように、皆さんのキャリアも得意な領域もそれぞれ違います。そうした異なる経験や専門性を持つメンバーが一緒に開発することで、どんな価値が生まれていますか?
伊藤:それぞれバックグラウンドが異なるので、同じことについて話していても、見えている景色がまったく違うことがあります。そのため、「なぜできないの?」「それをやることで、どんな価値があるの?」と、意見がぶつかることもあります。
でも、そこで終わるのではなく、お互いの「なぜ」を突き詰めていくと、どこかで考えが重なるポイントが見えてくる。エンジニア、デザイナー、営業、コンサルタントなど、それぞれ違う視点を持っているからこそ、一人ではたどり着けないアイデアや解決策が生まれると思っています。
酒井:私も、異なる専門性を持つメンバーがいるからこそ、新しい価値を生み出せると感じています。
以前のイトーキでは、システム開発の全てを社外に委託していました。今は社内にエンジニアがいることで、企画段階から一緒に考え、まず形にして試してみることができる。そこからフィードバックをもとに改善する、というサイクルもスピーディーに回せるようになりました。
また、専門性だけでなく、言語や文化的なバックグラウンドもさまざまです。だからこそチームでは、「言わなくても分かるだろう」をできるだけなくすことを意識しています。同じ言葉でも、人によって捉え方が違うことがあるので、言葉の裏側にある意図や真意を一つずつ確認する。違いがあることを前提に、お互いの考えを言葉にして共有することを大切にしています。
ニュン:異なる専門性を持つ人と一緒に働くことで、自分一人では気づけなかったことに気づけることも多いですね。
以前、「ABW実践度」という指標を検討したときにも、それを実感しました。「ABWができている状態」をデータでどう評価するかを考えるため、私はデータ処理や分析の知識を活かして、客観的に評価するためのスコアリング方法を検討しました。
でも、データだけを見ていても「働き方として何を評価するべきなのか」は判断できません。そこで、オフィスや働き方に詳しい酒井さんと相談しながら、一緒に形にしていきました。
自分の専門性だけでは答えを出せないことも、異なる知識や経験を掛け合わせることで形にできる。この経験から、それぞれ違う強みを持つ人と一緒に働くことの大切さを実感しました。
「とりあえずやってみよう」。未知の領域に踏み出すために
──ここまでのお話を踏まえて、新しい領域に挑戦するときに大切なことは何だと思いますか?
ニュン:新しいことに挑戦すると、正解が一つではないからこその難しさがあります。私自身も仕事を進めるなかで「この方針でいいのか」「このやり方で合っているのか」と迷うことがあります。
それでも、新しい技術や方法に出会ったときは、まず「なぜこうなるのだろう?」と考え、自分で調べたり、実際に試したりすることを大切にしています。最初から正解が分からなくても、まず自分なりに考えて動いてみる。その試行錯誤から、次に進むためのヒントが見えてくると思います。
酒井:私も、新しい領域に挑戦するときに必要なのは、最初から専門的な知識を持っていることよりも、「とりあえずやってみよう」と思えることだと感じています。
例えば開発画面も、最初は難しそうに見えるかもしれません。でも、まず何か入力してみる。分からなければAIに聞いたり、調べたりしてみる。そうやって手を動かしているうちに、できることが少しずつ増えていきます。
イトーキには「旺盛な開拓精神を持ち続けよう」という文化があります。AIソリューション開発でも、まず形にしたものを社内で試し、フィードバックをもらいながら改善していくことができます。最初から完璧な答えを求めるのではなく、まず試し、そこから学びながらより良いものにしていく。そんな姿勢が、新しい領域に挑戦するうえでは大切なのだと思います。
伊藤:実際に、自分たちがつくったプロトタイプをお客様や社内の人に見ていただいたとき、「そんなことができるんだ」「そんな視点があるんだ」と反応が変わる瞬間は、とても嬉しいですね。
最初から答えが分かっていたわけではなく、自分たちで考えて、つくって、反応を見て、また改善する。その繰り返しによって、自分たち自身もできることが広がっていると感じます。
AIがあることで、これまでなら専門外だと思っていた領域にも、以前より踏み出しやすくなりました。ただ、AIに任せればいいということではありません。これまで自分が培ってきた経験を活かしながら、分からないことはAIに聞いたり、詳しい人の力を借りたりして、一つずつできることを増やしていく。
最初からすべてを知っている必要はない。自分が持っているものを起点に、まず一歩踏み出してみることで、新しい領域は少しずつ自分の仕事になっていくのだと思います。
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AIによって、これまで専門外だった領域にも一歩を踏み出しやすくなりつつあります。一方で、新しい価値を生み出す土台になるのは、これまで一人ひとりが培ってきた経験や強みです。
今ある経験を起点に、AIや周囲の力を借りながら、まずはやってみる。その一歩が、自分の可能性を広げるきっかけになるのかもしれません。
- 所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。





