“前例なし”から生まれた美しさと座り心地。「SHIGA」に宿る、“見せない”技術

“前例なし”から生まれた美しさと座り心地。「SHIGA」に宿る、見せない技術 【SHIGA開発の裏側・前編】

ワークスタイルの多様化と自由化が進み、「オフィスの価値」が見直される今、イトーキでは美しさと快適性を両立するチェアが求められていると感じていました。そんななか、チェアを製造する「ITOKI DESIGN HOUSE SHIGA」で生まれたのが現代のワークチェア「SHIGA(シガ)」です。デザインは、プロダクトデザイナーの柴田文江氏が手がけています。そのミニマルで美しいデザインの裏には、これまでのオフィスチェア開発の常識を覆す、さまざまな新しい試みがありました。

今回は「SHIGA」の開発に携わった7名の設計メンバーに、開発の裏側とこだわりを聞きました。

横山 剛士(開発リーダー/技術士(機械部門:機械設計))

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部

横山 剛士(開発リーダー/技術士(機械部門:機械設計))

野沢 ゆり子(座 設計)

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部 チェア第2開発設計室

野沢 ゆり子(座 設計)

山岡 蒼(脚 設計)

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部 チェア第2開発設計室

山岡 蒼(脚 設計)

網浦 愛理子(背 設計)

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部 チェア第1開発設計室

網浦 愛理子(背 設計)

奥村 夏帆(肘 設計)

商品開発本部 プロダクト開発統括部 デザイン部 プロダクトデザイン室

奥村 夏帆(肘 設計)

木村 翔(メカ 設計)

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部 チェア第2開発設計室

木村 翔(メカ 設計)

伴 裕介(メカ 設計)

生産本部 第1開発設計統括部 第1開発設計部 チェア第1開発設計室

伴 裕介(メカ 設計)

  • 2026年5月時点
  • 所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。

デザインと座り心地の両立。常識を覆す「薄型メカ」

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ミニマルなデザインとエルゴノミクスがかなえる、現代のワークチェア「SHIGA(シガ)」

−−−「SHIGA」ならではの特長や新しさについて教えてください。

横山(リーダー):最大の特長は、ミニマルで美しいデザイン性を維持しながら座り心地を両立させた点です。

一般的なオフィスチェアは、座る人それぞれに合わせて細かな調整ができる多機能設計が特長です。一方「SHIGA」は、オープンスペースやミーティングスペースなど、利用者の入れ替わりが多い環境でも快適に使えることを重視しました。そこで、背もたれを倒す力の強弱調整といった個別設定を必要最小限に抑え、誰でも自然に座れるミニマルなチェアを目指しました。

特にこだわったのが、「メカボックスの薄型化」です。メカボックスとは、チェアの座面下に配置され、座面の高さ調節や背もたれのリクライニングなどの可動機能を制御・集約している中枢ユニットのことです。

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木村(メカ 設計):一般的なオフィスチェアでは、背の倒れる強弱を変えられる、座面の前後調整ができるなど、機能が多ければ多いほどメカボックスが分厚くなりがちです。

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必要な機能がコンパクトにまとまっているメカボックス。

今回「SHIGA」では、ミニマルなデザインを実現するため、機能を背もたれ初期角度ロックと上下昇降の2つに絞り込み、メカの薄型化に挑戦しました。さらに内部構造にも踏み込み、通常は1本で構成されるバネをあえて2本に分割し水平に配置することで、より薄いメカボックスを実現しています。

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座面下にあるメカボックスの大きさの違いは一目瞭然。

伴(メカ 設計):2つの機能を1つのレバーで実現したのも新しい試みのひとつです。レバーを回転させると上下昇降ができ、先端のボタンを押すと角度がロックされます。

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座面下の操作レバーを1本化。多様な人が直感的に使えるデザインへ。

木村(メカ 設計):ロッキングでは、「アンクルムーブ・シンクロロッキング」を採用しています。足首を支点にして背もたれと座面が連動して動く仕組みで、人間の体に対して違和感なく心地よいロッキングができると言われています。

「SHIGA」には背もたれが傾く際のはね返す強さを調整する「反力調整機能」をなくした代わりに、体格差を問わず快適な座り心地が得られる設計を重視しました。

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「アンクルムーブ・シンクロロッキング」を採用し、自然な姿勢変化をしなやかに支えてくれる。

業界でも珍しい、背面分離デザインが実現するまで

網浦(背 設計):「SHIGA」は、横一列に並べたときに連続性が生まれるよう、背面に水平のラインが入っているのも特長です。ポイントは、実際に背面が分離していることと、取り付けの要素が外からまったく見えないことです。

分離したパーツを組み立ててラインを作るのか、見た目だけラインが入っているようにするのかは、大きな検討事項でした。しかし、試作するなかで、シャープなラインを描くには実際に分割したほうがいい、という結論に至りました。

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並べたときの水平ラインが連続することで、空間に広がりがもたらされる。

チェアの背もたれは、前も後ろも見えてしまうものなので、単純に外側からビスで止めることはできません。さらに、品質が商品価値に大きく影響する部分でもあります。分割したパーツを、いかに取り付け部を見せずに接着させて強度を担保していくか。これがとても大変で、何度も試行錯誤しました。

網浦(背 設計):また、縫製ラインや背の分割ラインがまっすぐ綺麗に通っていることが大切ではありながらも、「一点もの」ではなく、あくまで「量産品」なので、誰がやっても安定した仕上がりになるよう、部品構成にこだわりました。

世の中に背面にラインの入ったチェアは存在しますが、実際に背もたれが分割されているデザインのチェアはとても珍しいと思います。

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分割した背を組み立て、一直線のラインを実現。見えない接合部の精度が求められる高度な技術がここに。

野沢(座 設計):座面は外から見るとフラットに見えるデザインですが、中に入っている芯材は、しっかりとお尻を包み込む器状になっています。

座ったときに太ももの裏を圧迫して血行が悪くならないよう、外観には現れない内部の設計で座り心地を担保しました。

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座はしっかりとお尻を包み込む芯材で座り心地をサポート。

−−−デザインを大切にしながら、チェアとしての機能性を保つために、皆さんが試行錯誤しながら設計した様子が伝わってきます。

外観を大切にしながら、いかに強度を保てるか

−−−脚と肘の設計においても、さまざまな工夫が凝らされているそうですね。

山岡(脚 設計):脚は、アルミ脚とパイプ脚の2種類があるのですが、それぞれに工夫があります。アルミ脚では、軽さと強度の両立を突き詰めました。地面と脚が水平なので、力のかかり方が不利になりやすいうえ、脚自体も細長いので、全体的に強度を保つのが難しいと感じていました。

そこで、外観のデザインを崩さない範囲で脚の内壁の厚さを0.1mm単位で調整し、軽さとアルミが壊れない限界の強度を両立させました。さらに、実は脚の上面の角度を92.4度、下面を90度にすることで強度を確保しています。

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脚の内部を空洞にすることで、軽さと耐久性を実現。

山岡(脚 設計):続いてパイプ脚では、5本の束をどうまとめるかが課題でした。こちらも外観に影響が出ないよう、部品同士の位置関係や形にこだわって強度を高めました。構想を実現するための組み立て方について、製造パートナーと何度も話し合いました。

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5本の脚をパーツで束ね、強度の検証を行う際の断面。

奥村(肘 設計):肘の設計では、動かしたときの「しっとりとした質感」にこだわりました。さまざまな手法を試しましたが、通常はなかなか使われない歯車を採用することで、ロックしたときにカチャカチャと音が鳴らない仕様になっています。

また、チェア本体のアルミ素材に合わせて、通常は樹脂で作ることの多い可動肘のカバーも、アルミ製にすることに挑戦しました。これにより、カバーをつけても全体のデザインや質感が崩れないようにしています。アルミで作れる形状には制約条件が多いので、工夫を重ねて作りました。

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アルミによる重厚感と上質感。歯車を使い、スムーズな使い心地へ。

−−−外からは見えない部分にこそ、細やかなこだわりが宿っているのですね。

「できない」と言わないのが当たり前。ITOKI DESIGN HOUSE SHIGAの妥協なき“ものづくり”

−−−今回「SHIGA」のデザインを担当されたプロダクトデザイナーの柴田文江さんがイトーキのものづくりの力を絶賛していたそうですが、皆さんが考える、技術力の高さの理由を教えてください。

横山(リーダー):“人”が理由だと思います。ものづくりではいろんな部門の人と関わるのですが、どの人も簡単に「できない」とは言わない。実現するためにどうすればいいのかを本気で考えてくれる人ばかりです。今までに数多くの新製品を生み出してきた背景もあってか、私たち以上に強い思いを持っている、心強い先輩方が集まっていると感じます。

伴(メカ 設計):全員が妥協しないですよね。特に品質や安全面では、「そこまでするか」と思うほど、何度も試験を行っています。

山岡(脚 設計):品質に対する水準が高いのはもちろんですが、安全性がクリアできたところで満足するのではなく、さらに使い心地や外観をアップデートするにはどうしたらいいかを考え、具現化できるところも強みだと思いますね。

木村(メカ 設計):設計部門と製造部門が同じ空間にいるのも良いですよね。物理的にも心理的にもパワーバランスを感じないので、フラットな立場で良いものを作ろうという意気込みを感じます。

−−−技術があるというだけではなく、妥協のない強いマインドが質の高いものづくりに繋がっているのですね。

“見えない”部分に宿るこだわり。作り手ならではの「SHIGA」の注目ポイント

−−−作り手側だからこそ注目してほしい、「SHIGA」の魅力はありますか?

網浦(背 設計):私はやはり、ビスなどの取り付け箇所がまったく見えないところです。デザインのノイズになる要素を完全に隠しきれたのは、我ながらすばらしい点だと思っています。

野沢(座 設計):縫製品でありながら、背・座ともにエッジのラインがシャープに出ているところが自慢ですね。丸みを帯びやすい素材ですが、キリッとした印象を与えられる仕上がりになっていて気に入っています。

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結合部がまったく見えない、なめらかで美しい背面。

奥村(肘 設計):アルミの質感がたまりません。特に、肘のパーツが座面下へと入っていく部分とレバー周辺の部分が好きです!

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肘から座面下へと続く美しいラインに注目!

山岡(脚 設計):私はカラーリングの美しさです。目標の色を出すために何度も調色を重ねて決めました。

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フレーム7色、張地20色でカスタマイズ可能な豊富なバリエーション。

伴(メカ 設計):デザインだけでなく、イトーキならではの安全面への配慮も自慢です。例えば、座面と背もたれが動いた際に隙間に指を挟まないよう、見えない部分に壁を設けています。座り心地やデザインを追求しつつ、安全性も担保している点は、設計者として胸を張れるポイントです。

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指を挟まないように設置された壁で、安全面にも配慮されている。

−−−それぞれの担当部位へのこだわりと愛着を感じます。

若手チームならではの、型にはまらない柔軟な発想と熱意で創り上げた「SHIGA」。機能を引き算しながらも心地よさを追求し、見えない部分にまで張り巡らされた細やかな技術には、イトーキのものづくりへの誇りが詰まっています。後編では、「全部位をゼロから設計する」という難題に対してどう取り組み、どのように成長したのかをメンバーに詳しく聞いています。ぜひ併せてご覧ください。

後編の記事は近日公開!ぜひお楽しみに。

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ショールームで「SHIGA」を体感する

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