常識にとらわれないことが、ロングセラーを革新する。36年目のvertebraに込めた「チェアにかける挑戦」

常識にとらわれないことが、ロングセラーを革新する。36年目のvertebraに込めた「チェアにかける挑戦」

イトーキのインハウスデザイナーとプロダクトデザイナー・柴田文江氏とのコラボレーションによって2017年に誕生した「vertebra03」。
時代の変化とともに、働く空間に求められる“心地よさ”の定義も変わり続けています。
80年代初期からの歴史を持つ「vertebra」シリーズが、どのように再解釈され、どんな想いで新たに形づくられたのか。若きプロジェクトチームが挑んだ“働くと暮らすを越境する”ものづくりの舞台裏に迫ります。

田中 啓介

商品企画担当

田中 啓介

柴田 文江

デザインスタジオエス代表

柴田 文江

竹谷 友希

構想設計・詳細設計担当

竹谷 友希

宮田 亜由子

CMFデザイン担当

宮田 亜由子

高橋 謙介

設計テーマリーダー 詳細設計担当

高橋 謙介

橋本 実

基本設計担当

橋本 実

森田 凌伍

イトーキ 詳細設計

森田 凌伍

※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。

「働く」と「暮らす」を越境する ワークチェア

「vertebra」プロジェクトチームメンバー

働く環境や人々の意識の変化に応えたい──この想いを叶えるために、プロダクトデザイナーに柴田文江氏を迎え、あらためてオフィスファニチャーのあり方を見つめ直した製品「vertebra03」。目指したのは、旧来の文脈とは異なる、これからの時代の自由な働き方に呼応するオフィスファニチャー。「働く」と「暮らす」を越境するワークチェアが、日本の「働く」をもっと自由にします。

1. 背のロッキング機能

「vertebra03」は、背と座が自然と動き、どんな姿勢でも座る人の身体に優しくフィット。人間工学に裏付けされた画期的な座り心地を実現しています。初代「vertebra」のコンセプトである「人間優先のオフィスチェア」をさらに進化させており、一見そのリビングライクな姿からは想像もつかない多彩な機能を搭載しています。

「vertebra03」背のロッキング機能

背にもたれると肘と背裏の2つの支点が連動し、最大25°まで傾斜。肘を支点にして傾くことで後傾姿勢をサポートし、自然にストレッチを促します。

2. 座のスライド機能

「vertebra03」座のスライド機能

背にもたれると座面が前方へ最大30mmスライド。後傾時の後方への影響がコンパクトで、狭い場所でも使いやすい設計に。背のロッキング機能と連動することで、身体をしっかり支えて安定感をキープ。座る人を自然と正しい着座姿勢に導きます。

3. 座の前傾機能

「vertebra03」 座の前傾機能

前傾姿勢を取ると、座面の前縁部が最大10°たわみながら自然と傾斜。パソコンや筆記作業時の大腿部(太もも)への圧迫感を軽減します。

4. 座の上下機能

「vertebra03」座の上下機能

左肘先端のダイヤルを回すだけで、体格に合った座面の高さに調整可能。座ったまま手元だけでスムーズに操作できます。※5本脚タイプのみ

5. ラインアップ

スチールとアルミフレームを組み合わせた軽快なボディ。ブラックやペールオリーブといったベーシックなカラーに加え、従来のワークチェアにはないチェスナットブラウンやダークグリーンのボディも用意

イトーキの新作ワークチェアは、5本脚・4本脚に加え、オークダークとオークライトの2色の木製脚タイプを初めてラインナップ。オフィスだけでなく、ホームユースにも最適なデザイン。

イトーキオリジナルを含む全28色の高品位なファブリック(「Knoll Textiles」2種14色とオリジナル2種14色)を用意。多様な個性とニーズに対応する多彩なバリエーション。

スチールとアルミを合わせた軽快なボディに、木脚やニュアンスカラーなど、従来のワークチェアにはなかった素材・色を採用。イトーキオリジナルを含む28種類のファブリックで、オフィスにやさしい空気感をもたらしてくれるだけでなく、ホームユースにも最適です。

常識にとらわれないチームで、「働く」と「暮らす」の両立を目指す

「vertebra」を再構築するプロジェクトメンバー

2017年、イトーキで最も長く販売されたヒット商品「vertebra」を再構築するプロジェクトが始動しました。
きっかけは、当時の社長の一言。「イトーキでもロングライフな定番商品をつくれないだろうか」。
商品企画担当の田中さんは「チャンスだと思った」と当時を振り返ります。

彼の脳裏に浮かんだのは、1981年に発売されたオフィスチェア「vertebra」。人間工学と生体力学に基づく最先端の機能を搭載し、日本のオフィスチェアの常識を覆したこの製品は、ロングセラーとして長年親しまれてきました。

しかし、「vertebra」は、現代の働き方にマッチしなくなってきていました。
「世の中の働き方が多様化する中で、オフィスに求められる役割も常に変化します。
“人間優先のオフィスチェア”という初代の思想を受け継ぎつつ、今の時代に合った形へと進化させる必要があると感じました。従来のセオリーの延長では新しい価値を生み出せない。3代目となる『vertebra』のリデザインに挑戦できる絶好のチャンスだと思いました」。

商品企画担当 田中 啓介

デザインスタジオエス代表 柴田 文江

そこで田中さんは、リビングライクなデザインに定評のあるプロダクトデザイナー・柴田文江氏に協業を依頼します。

セオリーにとらわれず「定番を再発明する」

「これまでと同じセオリーを辿っては『vertebra』の方向性を大きく変えることはできません。

これまでのオフィス家具は、機能がふんだんに搭載された“男性的”な印象のものが多かった。でも、今やオフィス家具だけで構成されるオフィスは少なくなり、テレワークで家でも仕事をする時代に変わってきています。

従来の常識にとらわれず、暮らしと地続きの空間に似合う、リビングライクなデザインから発想すれば大きな変化をもたらせるのではないか」。

コワーキングスペースでのフィールドワークと徹底的な議論を経て、サポートすべき姿勢や素材を検討し、「『働く』と『暮らす』を越境するワークチェア」というコンセプトを確立。

柴田氏もこう振り返ります。「オフィス家具をデザインするのは初めてでしたし、代表的な製品を扱うことにプレッシャーもありました。ですが、ロングセラーを今の時代に合わせてリデザインするのは、本当に価値のあることだと感じて。ぜひやってみたいと思いました」。

早速、本格的にプロジェクトがスタート。企画設計を行う拠点のデザインラボ月島(DLT)や製造を行っている滋賀チェア工場を周り、初代「vertebra」の機能などを共有します。「イトーキの皆さんの熱い“vertebra愛”を感じました」と柴田さん。


その後も約1年にわたり、「現代の働き方とは何か」を徹底的に議論します。コワーキングスペースなどで働く人を観察し、フィールドワークからサポートするべき姿勢の抽出や、座面形状、ファブリックを検討しながら、「『働く』と『暮らす』を越境するワークチェア」というコンセプトを固めました。

客観的な視点で生み出す、全く新しいCMF

2018年、プロジェクトにCMFデザイン担当※の宮田さんが加わります。4カ月前に内装材メーカーから転職したばかりの彼女は、「『vertebra』のバックボーンを知らない若い世代が見ても、素直に“カッコイイ!”と思ってもらえることが大事」と話します。

※CMFデザイン:製品のColor(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の3つの要素をデザインする専門分野。

数十種類の張地サンプルと柴田氏のカラー提案を組み合わせ、「働き方」や「暮らし方」に合わせた素材と色を追求。

数十種類の張地サンプルと柴田氏のカラー提案をミックスさせ、「働き方」や「暮らし方」に合わせて選べる素材と色を探り続けました。

最終的に、マットな質感にこだわった4種のボディカラーと、イトーキオリジナルタイプに加え、ニューヨークのファニチャーブランド「Knoll」のテキスタイルなどを盛り込んだ28色のファブリックを採用。イトーキ史上でも類を見ないほどの幅広いチャレンジングなCMFを実現しました。

CMFデザイン担当 宮田 亜由子

家具は「価値」や「空間」を提供するという顧客視点の成熟を指摘し、「オシャレ!」「今っぽい!」と魅力的に伝えるCMFの重要な役割について語る。

“いいものを一生懸命つくれば売れる”時代はもう終わった

宮田さんは言います。「オフィスに限らず、“いいものを一生懸命つくっていれば売れる”時代はもう過去の話。一方で、“安ければ喜ばれる”という時代も終わりました。ファニチャーは自分にどのような価値を与えてくれるのか、どんな空間をつくれるのか。そこまで顧客の視点は成熟しています」。

「その中で、『オシャレ!』『今っぽい!』とキャッチーに伝えられるのがCMFの大きな役割。今回のプロジェクトで、このことを改めて学べました」。

自由に議論し合える「イキイキ」とした環境から、
アイデアが生まれる

2019年、量産設計のフェーズに入ると、プロジェクトを牽引したのは入社10年目以内の若手メンバー。設計テーマリーダーの高橋さんを中心に、構想設計・詳細設計を担当する竹谷さん、同じく詳細設計担当の森田さんの3名が昼夜を問わず議論を重ねました。

構想設計・詳細設計担当 竹谷 友希

イトーキ 詳細設計 森田 凌伍

「柴田さんの出したデザインスケッチを見て、驚きました。細いシルエットに、様々な機能を組み込む必要がある。デザインと機構をいかに両立させるかを四六時中話していましたね」と竹谷さんは語ります。

森田さんも続けます。「“今日は仕事の話をやめよう”と言いながら、15分後には設計について議論をして。でも、そこからさまざまなアイデアが生まれました」。背を動かす、肘を折り曲げる、座面の裏の「メカ」と呼ばれる部分を薄くする、えぐれた座面にキレイに布を添わせる……デザインを生かすための機構を徹底的に話し合いました。

“デザインの意味” と“機能性”は両立できる

3人をバックアップしていた橋本さんは、「私以外、プロジェクトメンバーは全員、デザイン系出身という強みがあった」と話します。
「これまでチェアの設計は、機械系の出身者が行うのが主流でした。しかし今回は、デザイン系出身者が参加することで、機構を前提に否定するのではなく、デザインのもたらす意味を知っている人間が集まっているからこそ、その2つを両立することができたのだと思います」。

チームが一丸となり、「働く」と「暮らす」を越境するワークチェアを実現──こうして2019年、「vertebra03」が正式に誕生しました。

広がる、「働く」と「暮らす」の可能性

設計テーマリーダー 詳細設計担当 高橋 謙介

『vertebra03』の設計

初めて設計テーマリーダーを務めた高橋さんは振り返ります。「自由に挑戦させてもらえたからこそ、誇れる製品が完成したと思います。このチームで、このイトーキで完成させられたことは、本当に良かったと思っています。滋賀の工場をはじめ、多くの部門の皆さんに協力していただいたおかげです」。

「これからも時代に合った、イトーキにしかできない魅力的な製品を生み出していきたい。プロセスを見直しながら、より効率的にプロジェクトを進められるよう、私自身も成長していきたいです」。

田中さんも語ります。「『vertebra03』を“長く愛される製品”に育てていくことが私たちの使命です。チェアだけでなく、『働く』と『暮らす』魅力を融合させた“オフィス家具”ではなく、“デザインファニチャー”として、海外展開も含めてあらゆる可能性を模索していきます」。

2025年、初代の発売から44年目を迎えた「vertebra」シリーズ。イトーキで最も長く販売され、最も売れた「チェア」は、これからも時代の変化とともに進化し続けます。

否定しない、前のめりな姿勢がイトーキの強み

外部デザイナーとして期待される役割。それは、“できそうもない目標”を提案することだと思っています。ですが、私がどんな提案をしても、イトーキの皆さんは絶対に否定をしませんでした。初めのラフスケッチに近しい形で実現できたことに、とても感動しています。

今の働き方と本当にマッチしている「新しい椅子のあり方」をどのように実現するか。これを「ONE TEAM」で考え、形にできたことは、私にとっても非常に良い経験となりました。今後も「働く」と「暮らす」を両立する、新しい製品を生み出していただけることを期待しています。

── プロダクトデザイナー 柴田 文江(Design Studio S代表)

※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。

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