私たちイトーキは、「働く人が幸せに働けることは、企業の持続可能性そのものである」という信念を持っています。働く人の幸福は偶然に生まれるものではありません。その源泉となる「本質」を理解し、人々が毎日身を置く「オフィス」という環境にどう落とし込むか⸺ここに、企業の未来がかかっていると考えています。
イトーキ中央研究所では、経営・人事・ファシリティ・心理学・教育など多様な領域を横断しながら、「働く人の幸福×オフィスの未来」を定量的かつ実践的に読み解くための研究を進めています。全国数千人規模の市場調査、先進事例の分析、識者インタビューなどから、働く人の行動・心理・成果を可視化し、オフィスの新築・移転・再構築に向き合う企業の意思決定を支える⸺本コラムシリーズでは、そうした知見をお届けします。
このコラムの執筆者
PROFILE
Hiroaki Ninoyu
株式会社イトーキ 執行役員 中央研究所上席研究員
1990年イトーキ入社後、デザイン設計を中心に様々なオフィス・公共施設構築の業務に携わる。ワークショップ開催からプログラミング、コンセプト立案、デザイン設計、現場監理まで一貫して行うことで満足度の高い施設づくりを得意とする。自社オフィスの企画・設計に携わる。日経ニューオフィス賞他、デザインアワード入賞多数。
働き方の変化と揺れ動く「働く人の心理」
近年、人的資本経営が注目され、生産性向上の目的からもオフィスの新築・移転・再構築への関心が急速に高まっています。しかし、企業が直面している本質的な課題は、レイアウトやデザインの議論だけではありません。それは、働く人の心理と行動が大きく揺れ動いているという現実です。
イトーキは2025年、全国のオフィスワーカー約5,000名を対象に以下の2つの調査を実施しました。
オフィスワーカーの意識調査
-2025年オフィス構築に向けて-
オフィスワーカーの意識調査2025
-多様化する働きがいと出社価値の再定義に向けて-
その調査結果から、次のような示唆が得られています。
- 出社したくないと思う層は6~7割あるが、環境満足度が高い層では「出社に前向き」が約48%
- 20代の約22%が孤独感の増加を実感し、若手ほど「組織のつながりの弱さ」を感じやすい
- オフィス環境からの支援を感じる層では、生産性実感が82~87%(平均36%)
- 生産性実感が低い層の離職意向は60%超(平均42%)
これらは「働き方の問題」の多くが、個人の努力だけではなく環境による影響を受け、その環境が心理や成果に連鎖的に作用していることを示しています。つまり、オフィス投資とは単なる設備・内装整備ではなく、人的資本経営の中枢を支える取り組みそのものなのです。
働く人が求めているのは、ファシリティがつくる「意味」と「体験」
調査を読み解くと、働く人がオフィスに求めているのは、単なる設備や機能ではなく、「どんな体験が得られるのか」という質そのものであることが分かります。自分の居場所があること、集中が守られること、成長の手応えを感じられること。さらに、相談や雑談が自然に生まれることや、関係性が深まっていくこと。
これらは、「自分の活動が活性化する体験」と「組織とのつながりが育つ体験」の両方を働く人にもたらします。
こうした体験が日常的に得られると、心理は自然と前向きに整い、その心理が行動へ転換し、最終的には生産性や成果の向上へと結びついていくでしょう。
だからこそ、オフィス設計の本質は美しさだけにとどまらず、働く人の心理のメカニズムを理解し、それを支える体験をどうデザインするか、ここにオフィス設計の核となる視点があるのです。
「出社したい・したくない」に環境改善は大きな影響がある
出典:イトーキ「オフィスワーカーの意識調査 -2025年オフィス構築に向けて-」
近年「出社回帰」が多く語られますが、「制度だけで出社をコントロールする」ことの限界も見えています。データを見ると、オフィス環境は出社意欲に大きな影響を与えていることが読み取れます。
実際、いつも前向きに「オフィスに行きたい」と感じる層は約20%に過ぎません。
しかし内訳を見ると
- 環境満足度が高い層→ 出社前向き 約48%
- 生産性実感が高い層→ 54~55%
- 環境満足度が低い層→ 約9%
- 生産性実感が低い層→ 約7%
この差異は、「環境×生産性実感×心理」の3つがそろうことで出社意欲が大きく変わることを示唆しています。
若手ほど孤独である。これは「構造的離職リスク」へとつながる
出典:イトーキ「オフィスワーカーの意識調査 -2025年オフィス構築に向けて-」
20代の約22%が孤独感の増加を実感しています。孤独を感じる層の離職意向は30~40%台へ跳ね上がり、若手の孤立は離職傾向へと強く関連しており離職のリスクへとつながっています。
若手はとくに、
- 相談相手が分からない
- 自分の役割や立ち位置が曖昧
- 成長の実感を得にくい
- オフィスに「居場所」を感じにくい
といった心理的負荷を抱えやすい構造があります。
調査でも、「欲しいオフィススペース」の優先順位に世代差があり、20代はコミュニケーションが生まれるスペースを強く求めますが、40~50代では優先度が低下します。
こうした構造を「個人の問題」として扱えば、組織力は確実に低下します。オフィスは若手の心理的安全性を支え、関係性を育てる環境として設計されるべきものです。
生産性実感値向上のカギは「支援されているという実感」
出典:イトーキ「オフィスワーカーの意識調査2025 -多様化する働きがいと出社価値の再定義に向けて-」
調査では、「環境→
心理→
行動」の連鎖が示唆されました。
オフィスが「集中」「成長」「コミュニケーション」を支援していると感じる層では、生産性実感が82~87%に達します。一方、支援を感じていない層は6~10%にとどまります。
この差が示すのは、「オフィスで自分が支援されている」という心理状態が生産性実感と強く関係しているということです。
そしてその心理は、環境のつくり方によって大きく左右されるのです。
まとめ
2025年に行った2つの調査から見えてきたのは、働く環境が「心理」を動かし、その心理が「行動」や「成果」へと連鎖していくという構造でした。
出社意欲や生産性実感、離職意向といった課題の多くは、個人ではなくオフィス環境の力によって大きく変わります。
- 自分の居場所を感じられること
- 集中や成長が支えられていると実感できること
- 人とのつながりが、自然に育まれること
こうした体験の積み重ねが、働く人の心を整え、行動を変え、組織全体の力へとつながっていく。今回の調査は、オフィスという環境が人的資本経営の土台となり、企業の価値向上にも寄与する重要な存在であることを示唆していました。
これからオフィスをつくるみなさまに、本データと知見が、働く人の未来をひらき、企業のこれからを形づくる一助となれば幸いです。
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