2026年5月29日
専門性の磨き方とは?60歳でなお第一線で活躍する“木”のスペシャリストのキャリア論
「Econifa(エコニファ)」は国産の木を活用し、日本のオフィスに働き心地の良い空間をつくるソリューションです。小島勇さんは入社以来、Econifaの立ち上げや無垢材製品の開発、サステナブルな素材研究まで、ひたすらに“木”と向き合うキャリアを歩んできました。
Econifa立ち上げ当初はオフィス家具への木材利用はまだ一般的ではなく、すべてがゼロからのスタートでした。木材事業者や研究者から教わりながら、自らも試行錯誤を重ね、少しずつ知識やネットワークを広げていった小島さん。そうして築いた専門性を武器に、60歳となった現在も、再雇用制度を活用しながら第一線で挑戦を続けています。
今や業界で“木”のスペシャリストと呼ばれるほどの専門性を築いた小島さん。その裏には、つねに「できるんじゃないか」という好奇心と挑戦する姿勢がありました。
株式会社イトーキ
生産本部
素材研究室/商品開発本部
プロダクト開発統括部
広島工業大学
環境学部
建築デザイン学科
非常勤講師
※2026年5月時点
小島 勇(こじま いさむ)
2007年、上海駐在中にイトーキへ中途入社。現地で設計部門責任者を務めたのち、2010年に帰国。帰国後、地域材活用ソリューション「Econifa」立ち上げに参画。2012年、イトーキ東京イノベーションセンター「SYNQA」開設、Econifaでグッドデザイン賞受賞。2017年より商品開発本部にて無垢材を活用した商品開発に従事。2020年より大学と共同でオフィス木質化やオフィス環境、ABW関連の研究などに参画。オフィステーブル「silta(シルタ)」の「ウッドデザイン賞2022」経済産業大臣賞受賞を含め、これまでに延べ28件のウッドデザイン賞を受賞。
※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。
「自分がやりたい開発ができるかもしれない」上海駐在中に訪れた転機
私が現在手がけているのは、国産木材を活用した製品開発と、国産材活用ソリューション「Econifa」の推進です。大学と共同でオフィスの木質化と働く人のパフォーマンス向上の関連性にまつわる研究もしています。
「Econifa」は2010年に始まったソリューションです。オフィス空間の木質化を推進し、森林の循環や地場産業の活性化を目指していました。立ち上げ当初は地域材の利用を促進してきましたが、現在は新時代のソリューションとして国産材を幅広く使っていくことや、オフィスに働き心地の良い空間をつくることを前面に打ち出していく、リブランディングを推進しています。
最近では、コーヒー豆かすをはじめ、本来捨てられてしまう廃材を家具に活用することにも取り組んでいます。日本ではコーヒーの消費量の増加に伴い、コーヒー豆のかすの廃棄量も増加しているのですが、それを家具に活用することで廃棄物をアップサイクルした製品へと生まれ変わらせることを実現しました。
廃材となるコーヒー豆かすから作ったプレート。石油系樹脂を使わず、天然系素材のみを用いて成形している。プレートを接着した芯材も木製であり、製品のすべてが植物由来となった「オールバイオマスプレート」
恐れ多くも「木のプロフェッショナル」と呼んでいただくこともある私ですが、幼いころから木は身近なものでした。生まれたのは田舎の山奥です。山に逃げ込まなければ畑の手伝いをさせられる…ということもあり、いつも山のなかで遊んでいました(笑)。隠れ家を作ったり、林道をソリで滑ったり、穴を掘ったり。
社会に出てからは、エンジニアとしてずっと家具に関わる仕事をしてきました。イトーキに入社するきっかけになったのは、前職で上海に駐在していたときにお声がけいただいたことです。当時は多くの日系企業が上海に進出しており、同じく上海に進出してきたイトーキの中に、以前お世話になった先輩がいたんです。
実はそのとき、私の中でも委託生産の仕事に限界を感じていました。イトーキは自社工場を持っていたこともあり、自分が本当にやりたい開発がイトーキでならできるかもしれないと思ったこと、そしてこれまでの経験から、中国での業績拡大に貢献できるのではと考えたことから入社を決めました。
初めて挑むオフィスの木質化。一人ひとりに誠実に向き合い築いた“繋がり”
帰国してからは、「Econifa」の立ち上げに携わることになりました。「Econifa」の前任者と木製家具について話す機会があり、「そんなに詳しいならぜひ一緒に」と言っていただいたのです。
とは言え、詳しいと言っても素人に毛の生えたようなもの。木の基礎知識を前職の定時後に職業訓練校で学んだことと、高級家具の表面に使う突板などを扱った経験がある程度でした。
当時、オフィス家具に木製のものは少なく、いわゆる「高級家具」と呼ばれるものも表面だけ無垢の木を薄くスライスした突板を使い、中身は工業化されたチップボードを使うのが主流でした。木製家具のノウハウがほとんどない状態の中、本当の意味で木を扱うのは初めての経験でした。
vertebra03WOOD(バーテブラ03ウッド)。背と座には、国産のクリ材を使用している。
さらに、Econifaを始めた当初は、やわらかくて傷がつきやすいスギやヒノキに、どのように硬くしていくのかは大きな課題でした。塗装で硬くしたり、圧縮してみたりと、さまざまな試行錯誤を重ねていきました。
やわらかい特性を魅力として活かせるようになるまでには多くの段階を踏みました。木材事業者や研究者に教えていただきながら、樹種ごとの加工や製品化の可能性を探っていくしかありませんでした。
木材の調達にも頭を悩ませましたね。森林で伐採された丸太は、市場の競りを通じて流通するのが一般的なのですが、その競りに参加できるのは登録事業者だけなんです。
つまり、私たちが必要とする量や品質、納期に合った材料を安定して確保するには、競り落とされた丸太を扱う製材所と直接やり取りをして、信頼関係を築いていくことが欠かせませんでした。
また、2012年に東京・京橋に開設したイトーキ東京イノベーションセンター「SYNQA」では、スギのフローリングをオフィスに初めて採用しました。
ただ、製材所に相談した当初は、オフィスを土足で利用するなんて非常識だと断られてしまって。
事情を丁寧に説明して理解していただいた結果、OAフロアへの直貼り施工や清掃の方法、土足でどう傷がついていくのかといったことを、実際に確かめながら一つひとつ検証していくことができました。
こうして得られた知見はその後の実務に活きただけでなく、製材所との連携をより強固にし、調達ネットワークの拡大にもつながったと感じています。
私が結果的に専門性を築き上げられたのは、こうして専門家や事業者の方にさまざまなことを教えていただいたからだと思います。私は開発者としてのキャリアは長いけれど、木材に関しては初心者同然。だからこそ、素直にいろんなことを聞いて学んでいく姿勢を大切にしていました。
信頼関係を築くにあたっては、「きちんと対価を支払うこと」を意識していました。たとえば、サンプルひとつにも、塗装するのに何十工程も踏んでいます。削って整えて、色を入れて、また削って、上塗りをして。小さなサンプルだとしても、絶対にただでもらえると思っちゃいけない。
それから、自分が何か課題を抱えたときには「この人ならわかるかもしれない」と思い出して、遠慮なく連絡する。そして、向こうから聞かれたことにはこちらの知見を惜しみなく共有する。リスペクトを持って、双方向でギブをしあうコミュニケーションを通じて、一件一件、信頼を積み上げていきました。
コロナ前までは「Econifa大忘年会」というものを開催していて、最初は社内の人を中心に10人程度でやっていたものが、最終的には社外の人も含めた関係者70人が全国から集まるようになっていました。木にまつわる研究者や専門家、森林組合や木材事業者の方まで、知り合いからまた知り合いを紹介していただいて、どんどん繋がりが広がっていきました。まさに積み重ねですね。
挑戦を後押しするのは、「できるんじゃないか」の好奇心
ITOKI DESIGN HOUSE TOKYOの階段にも小島さんが選んだ木が使われている
イトーキで働くおもしろさは、「やりたい」と思ったことを応援してくれるところです。上長から止められた記憶がなくて、むしろ「いつやろうか?」と言われつづけてきました(笑)。
新しいことを受け入れてサポートするような文化があって、企業理念にもある「開拓精神」が根付いていると感じます。何でもやらせてくれる土壌があるからこそ、私自身も集中して専門性を育てられてきたと思いますね。
新しいことをやるとき、つねに「できるんじゃないか」という感覚があります。コーヒー豆かすの活用も、最初は自分がプライベートで豆かすを取っておいたことが始まりでした。これを乾燥させたらどうなるんだろう?どうしたらくっつくんだろう?と思って。
木材の芯材に使われるパーティクルボードは、細かいチップの表面に接着剤がまぶされて、熱で圧縮されてできています。ということは、豆かすも同じような工程を踏めば、似たようなものができるんじゃないか、と。そう考えることができるのは、40年近くいろいろな経験と失敗を積み重ねてきたからこそ生まれる感覚なのかもしれません。
子どものような好奇心で、思いついたことはとりあえずやってみます。この「妄想を現実にする」のが味わえるのはイトーキならではですね。妄想が形になる過程がとても面白いんです。思い描いていたとおりにオフィスに木が取り入れられるようになったり、新しい種類の木が採用されるようになったり。
もちろん、苦しい時期もあるし、壁にぶつかることもあります。でも、そんなときに生まれる偶発性がたまらなく好きだったりもします。
以前、無垢クリ材とアルミニウム芯材を用いた大型天板テーブル「silta(シルタ)」の開発に携わっていたときのことです。
大型天板に補強を設けず、天板のたわみが起きない、脚だけで支えられる構造を目指して、開発メンバーと試作を繰り返していました。しかし、どうしても天板がたわんでしまう……。
メンバーも諦めかけて一度試作品を解体しようと、仮の脚に置いたんです。するとその瞬間、天板のたわみがなくなったのです!天板のたわみに脚の位置が関係していることに気が付いた瞬間でした。「これだ!」とみんなで手を叩いて喜びました。
そんな「silta」が「ウッドデザイン賞2022」経済産業大臣賞を受賞したのも印象深いです。
解体のために仮の脚に置いたところ天板のたわみがなくなった。たわみと脚の位置関係に気が付いた瞬間
「自分を若手だと思って仕事をしよう」と決めた
イトーキで定年を迎え再雇用制度を利用するとき、ひとつも迷いはありませんでした。これまでと変わりなく、仕事を任せてもらえています。むしろ前以上にやることの幅は広がっているかもしれませんね。
60歳になったとき、「自分を若手だと思って仕事をしよう」と決めました。歳を重ねることで知識も増えるし、全部知っているような気持ちになるけれど、そうやって驕り高ぶっていると、人の話が聞けなくなってしまうし、間違っていても指摘されなくなってしまう。
でも、若手のつもりでいれば、自分が詳しくないことには「ちょっと調べる時間をください」と素直に言えるし、若い人からの質問もフラットに受け止められる。
若手や中堅の社員には、常に自分の知識が正解だと思わず、いろいろな方からの助言を大事にしてほしいです。私自身も同じスタンスで、知らないことは素直に聞き、指摘を受け止めていきたいと思っています。
今後の展望としては、引き続きいい製品を作っていきたいですね。2025年12月には、農林水産省と「建築物木材利用促進協定」も締結し、今後5年間で3,250㎥の国産材を利用していくことも決まりました。森林資源の循環につなげながら、働く人が「この会社で働いていてよかった」と思えるような空間を増やしていきたい。そのためにも、もっとさまざまな木材を活用できるようにしたり、これまで築いてきた繋がりを活かしながら、新しい挑戦を続けていきたいですね。
最近ではその一環として、内装木質化の効果について長年研究を重ねている、東京大学大学院 農学生命科学研究科教授の恒次祐子先生とも共同研究を進めています。2026年5月には、その取り組みのひとつとして、イトーキが東京大学において、国産木材を活用した共創空間「co-niwa Econifa(コニワ エコニファ)」の企画・設計、空間デザインを手がけました。学生や教員が自然に集い、交流や新たな価値創出が生まれる場を目指した空間で、国産材を活用した家具や内装を採用しています。
(左)2025年12月に農林水産省と締結した「建築物木材利用促進協定」、(右)東京大学「co-niwa Econifa(コニワ エコニファ)」
いずれはイトーキの森を持つ、という個人的な夢もあります。木を使って製品をつくり、その売上で植林を行い、持続可能な森林をつくっていきたい。木材の調達から製品化まで一気通貫でできる強みを活かして、さらにものづくりの全工程に責任を持った製品を生み出し続けていきたいですね。
- 所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。




