「木の家具って、いいね」を実証する。

オフィスに木の家具があることはワーカーにどのような効果をもたらすのでしょうか。イトーキではその実証実験を行いました。共同研究を行った国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所チーム長 杉山真樹氏(写真中央)、東京大学大学院 農学生命科学研究科教授 恒次祐子氏(写真右)、早稲田大学 人間科学学術院 講師 白川真裕氏(写真左)にお集まりいただき、実証実験の内容や結果、意義についてお聞きしました。


── まず、みなさまの専門分野を教えてください。

杉山 「家具用の木材」と「木の良さの解明」の2本立てで研究を行っています。前者は国産材があまり使われていない家具・内装材の分野で利用率を上げるため、これらの分野での国産材の流通や確保、利用用途の研究です。後者は、今回の対談の主題になる「木の良さ」を科学的なエビデンスで解明する研究です。

白川 人の心に着目して研究する心理学のなかに、環境心理学という領域があります。人を取り囲む環境が、心理や行動にどう影響するのか、そのメカニズムを研究してきました。対象となる環境には、都市や自然などさまざまありますが、主に建物の中の空間を扱っており、これまで医療施設の待合室やカウンセリングルームなど、比較的コンパクトな空間での研究を行ってきました。

恒次 林産学といって森から採れる産物について研究する領域があり、杉山先生や私はその領域の出身です。木材そのものの質を調べる分野が中心ですが、木材と人の関係を調べる分野もあり、それが私の専門です。主に木材のにおいや見た目、手触りなどが人に与える影響を明らかする研究を行っています。

── 今回の実証実験は、林野庁令和2年度内装木質化等促進のための環境整備に向けた取組支援事業「内装木質化等の効果実証事業」にて実施されています。

杉山 現在、林野庁では住宅以外のオフィス、学校、病院などで木材を使用していこうという「ウッド・チェンジ」の取り組みを推進しています。「内装木質化等の効果実証事業」は、内装を木質化することが、心理・生理の面にどのような影響を与え、経済的にどのような効果があるかを実証し、木材を使うことによるプラスαの効果をアピールするものです。これをオフィス環境で実証できないかということがきっかけでイトーキと共同研究することになりました。研究チームとして、私だけでなく、心理面に関して白川先生、生理面に関して恒次先生に加わっていただきました。

── 「オフィスにおける木製家具がワーカーに与える効果」の実証実験のあらましを教えてください。

杉山 今回の大きなテーマは実際のオフィスで、「大型天板テーブルの天板を木材にしたら働きやすくなるのか」ということです。検証には、クリ無垢3mm単板クリア塗装(以下、クリ厚突単板)、木目調メラミン化粧板(以下、木目メラミン)、単色白メラミン化粧板(以下、白色メラミン)の3種類の天板を用いました。なぜこの3種類で検証したのか。木目メラミンと白色メラミンで同じ材料ですが見た目が違う。さらに木目メラミンとクリ厚突単板で材料が違い、見た目は木だけれど触り心地が違う。こうした3種類を比較することで、見た目だけ木であれば良いのか、もしくは無垢の木が良いのかを評価し、明らかにすることが大きな命題でした。

── 3種の天板での比較、評価がポイントなのですね。

杉山 イトーキのオフィスで、オフィスワーカー18名を被験者として1カ月ごとに各テーブルを設置し2週間のうち5日間実際に働いていただき、集中力や発想力、生理・心理面に及ぼす影響について科学的に検証しました。延べ130日にわたる長期的な実験にご協力いただきました[写真1]。

恒次 木材の良さを証明する研究には2つの方向があります。1つは実験室でにおいや手触り、見た目について条件を揃えて行う精密な実験で、もう1つが実際に現場で使用したらどうなるのかという実験です。これらは車の両輪のようなもので、2つが揃うことで総合的に木の良さが証明できます。今回のように実際に働いているワーカーを対象に検証できる機会は少なく、貴重なデータを得られる機会となりました。

[写真1]実証実験の様子

── では、それぞれの実験を詳しく教えてください。

白川 私が担当したのは3条件(クリ厚突単板・木目メラミン・白色メラミン)の違いが、ワーカーの心理や生産性に及ぼす影響についての検証です。集中力を制限時間内で行う計算課題、発想力をマインドマップによる作業タスクで評価し、加えて質問紙による主観評価を実施しました。

── どのような結果だったのでしょうか。

白川 マインドマップとは、ひとつのテーマから思い浮かんだ言葉を書き連ねていく連想ゲームのようなもので、多く書けているほど発想力が高く、イメージが湧きやすいといえます。クリ厚突単板での結果が高めではありましたが、統計的に解析すると意味のある差と言えない結果でした。また、計算課題では顕著な差は認められませんでした。

差が出ているのは、主観的な評価の部分です。評価項目は、作業効率やコミュニケーション、発想力といった生産性に関する5項目、満足度1項目、加えて総合評価2項目と、形容詞対を用いた印象評価項目で、いずれも5段階評価をもとめました。

生産性についてはクリ厚突単板と白色メラミンの間には統計的な差が出ていて、クリ厚突単板の作業効率が高く、アイデアが湧きやすいと評価されています[図1]。また、満足度、「好き・嫌い」、「利用したい・したくない」という総合評価は、クリ厚突単板、木目メラミン、白色メラミンという順になりました。

[図1]集中力・発想力に関する主観評価の平均値の比較(N=17)

[図1]集中力・発想力に関する主観評価の平均値の比較(N=17)

── 対になる形容詞を用いた印象評価についても詳しく教えてください。

白川 形容詞対を使って対象のイメージを測定します。今回は「不快な―快適な」「かたい―やわらかい」「単調な―変化に富んだ」など21項目の形容詞対を用いました。

さらにこの結果を得点の傾向が似ているものでグループ分けする「因子分析」を行いました。その結果、4つの因子が抽出され、「評価性」「とがり」「こざっぱり」「覚醒」と名付けました。これを3条件で比較すると、「評価性」「とがり」でクリ厚突単板の得点が高い。興味深いのは「とがり」因子です。「典型的でない」、「変化に富んだ」など、クリ厚突単板のテーブルにいつもと違う良さがあると評価しているということです。

しかしながら、「とがり度」が高いとオフィス家具として「良い」と言えるのでしょうか。今回のテーブルは、デザイン自体は同じオフィスらしいテーブルであり、天板の部分のみを変えています。そこがポイントであり、クリ厚突単板にすることで「今までとちょっと違っていいね」と評価されているのかもしれません。木を使っているから「とがり度」が高いと捉え、すべて木材のテーブルにする、また、空間自体も木で覆うようにすると、「オフィスらしさを残してほしい」と評価が変わるかもしれません。

── ありがとうございます。では杉山先生お願いします。

杉山 心理面の評価として、「自覚症しらべ」、「STAI状態・特性不安検査」、「気分プロフィール検査(POMS2)」という質問紙を使った3種類の検査を行いました。

自覚症しらべは、眠気感、不安定感、不快感、だるさ感、ぼやけ感に分けて疲労感を評価します。結果としては不快感とだるさ感について白色メラミンに対してクリ厚突単板のほうが軽減している可能性が示されました。STAIは不安感を評価するもので、得点が高いほど不安ということになるのですが、測定の結果、白色メラミンに対してクリ厚突単板のほうが不安感が低い可能性が示されました[図2]。POMS2は気分状態を評価するもので、ここでも白色メラミンに対してクリ厚突単板のほうが疲労感や不安感を軽減させる可能性が示唆されました。

[図2]STAI状態・特性不安得点の平均値の比較(N=17)

[図2]STAI状態・特性不安得点の平均値の比較(N=17)

── 次に恒次先生の実証実験についてお願いします。

恒次 私は生理的な指標を用い、3条件によるワーカーのストレス状態を評価しました。指標としたのは、唾液中に含まれるコルチゾールというホルモンの濃度です。コルチゾールは、朝起きると唾液や血中にたくさん分泌され、夕方にかけて下がっていく特徴があります。ストレスが低い人は反応性が良いので、朝ぐっと上がり、夜にかけて急激に下がっていきます。ストレスが高い人はあまり朝の反応が良くなく下がり方もなだらかです。

今回の実験では、白色メラミンの場合は傾きがほとんど変わりません。クリ厚突単板の場合は傾きが大きくなっています[図3]。この結果からクリ厚突単板を使うことでストレス状態が低くなったことが推測されます。

同様の研究で、家の周りに緑地が多いところに住んでいる人たちはコルチゾール濃度の傾きが大きいという研究例があります。自然に触れているとストレスを低減できることを示していますが、オフィスに自然のものを取り入れると同様の効果があるかもしれないと考えられます。

[図3]異なる天板使用時の唾液中のコルチゾールの日中推移(代表的な1名の例)

[図3]異なる天板使用時の唾液中のコルチゾールの日中推移(代表的な1名の例)

── こうした実験の結果について、どのように評価されますか。

杉山 おおまかに言えば「クリ厚突単板の天板が良さそうだな」ということだと思います。ただ、クリ厚突単板と木目メラミンがほぼ同じで白色メラミンとは差があるという結果もあります。そう考えると目的に合わせた使い方があってしかるべきで、すべてを木にすれば良いわけではないと解釈しています。

白川 計算課題やマインドマップといった課題では差が見られませんでしたが、主観的な評価ではポジティブな結果が得られています。ワーカーはクリ厚突単板を使ったテーブルは普段よりも良い環境で仕事ができたと感じていると言えます。

恒次 実際のオフィスで働きながらのデータで、ワーカーにはさまざまなストレスがかかります。ですから天板だけの影響とは言えませんが、コルチゾール濃度でこのような差が出たことは大きな成果です。その理由の1つとしてクリ厚突単板のテーブルが魅力的であったことがあると思います。

杉山 恒次先生が取られたコルチゾール濃度のデータは非常に貴重です。実際にこのような実験では、生理的な反応とアンケート調査をセットで行います。するとアンケートでは差があるけれど、生理反応では差がないということが多いのです。

恒次 木のにおいが人を落ち着かせるといった研究例は多いですが、見た目や手触りに対してはまだまだデータが少ない。さらなる検証が必要です。

杉山 そうですね。また、オフィスは当然ながら働き続ける空間であり、ファーストインプレッションだけでは決まりません。さらに長期的なデータを取っていく必要があります。

── クリ厚突単板テーブルの効果が示されましたが、製品としてはそれぞれに異なる個性を持ちます。これをオフィスで使う意義はいかがでしょうか。

恒次 かつてのオフィスは、同じ場所で、同じ机で、同じ仕事をするといった画一的イメージでしたが、今は時間も自由で、働く場所も選べて、自分と相性がいいものを使用して、健康で豊かに働こうという流れになっています。そういう意味でこれからはオフィスにも個性が取り入れられていくと思います。1日で過ごす時間が長いオフィスで、ストレスや疲れではなく、健康になれることが望ましいですよね。

白川 環境を変えることでダイレクトにポジティブな影響を得られなかったとしても、「私の会社は従業員がより働きやすくなるように環境を工夫している」と伝わり、結果的に従業員のモチベーションアップにつながることもあります。すべての環境を変えるのではなく、木製のテーブルを1つ導入するだけでも達成できることだと思います。

杉山 今回、天板に木を用いただけでこのような効果が得られたことは価値のある結果でした。これから木質化に取り組む場合、空間すべてを木質化するなど難しく考えなくてもいい。テーブルだけでも、パーテーションだけでも構いません。できる範囲で始めることが重要ということです。

── 実証実験とは離れますが、最後にみなさんが考える「木の良さ」についてお聞かせください。

恒次 木が他の材料と違うと思うのは「時間性」です。長く使ったときの変化が大きいのではないでしょうか。木目メラミンはそっくりに作れますが長く使ったときの変化まではまだ再現できてないですよね。木は、人と一緒に歳を取るという「時間性」をもっているところが特長だと考えます。

白川 味わいが出たり、趣を増すといった良さもありますが、邪魔しない良さ、馴染んでくれる良さ、他の素材と組み合わせてもしっくりくるバランスの良さもあると思います。そして気付く人には自慢に思えたり、嬉しかったりするというところがあり、オフィスに取り入れるには理想的な素材ではないでしょうか。

杉山 木材の良さとして語られている言葉に「物語性」があります。木材製品を受け入れてもらうためには、その物語を語ることが大切であるということです。恒次先生がおっしゃった「時間性」は、製品が使われ、育っていく過程ですが、木材にはその前もあります。どこに生えて、どこで切られ、誰が加工して製品になったのか。そのような物語性も木材の魅力ではないかと思います。

杉山 真樹 Masaki Sugiyama

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
木材加工・特性研究領域チーム長(特性評価担当)

1995年京都大学大学院農学研究科博士課程修了。博士(農学)、技術士(森林)。1997年林野庁森林総合研究所入所、2013年より現職。専門分野は木材物理学・木質居住環境学。木材および木質空間の快適性に関する研究、国内における家具・内装用木材の流通・利用に関する研究に従事。三重大学大学院 生物資源学研究科 資源循環学専攻 連携准教授を併任。

恒次 祐子 Yuko Tsunetsugu

東京大学大学院農学生命科学研究科
生物材料科学専攻 木材物理学研究室 教授

1999年東京大学大学院農学生命科学研究科修士課程修了。博士(工学)。同年林野庁 森林総合研究所入所、2017年東京大学大学院農学生命科学研究科准教授、2021年より現職。専門分野は林産学,居住環境学。木材や木材を用いた空間が人に与える影響、木材利用による地球環境保全効果の定量的な評価などを研究。

白川 真裕 Mayu Shirakawa

早稲田大学 人間科学学術院 講師

2013年日本大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。日本大学文理学部人文科学研究所研究員、文教大学・早稲田大学・日本大学非常勤講師などを経て、2021年より現職。専門分野は環境心理学。医療施設やカウンセリングルームなどを対象に、環境のもつさまざまな特徴が人の心理に与える影響を研究。東京都立大学システムデザイン学部客員研究員。

※所属部署・役職は取材当時のものとなります

関連情報

こちらもご覧ください

お問い合わせ・サポート

ご質問やお問い合わせは
お問い合わせフォームかお電話でお願いいたします。

お問い合わせ・サポート

ショールーム一覧

お近くのショールームへお越しいただき、
イトーキの考える新しい提案を是非ご体感ください。

ショールーム一覧

↑