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データで支える分散型ワーク
~Veldhoen+Companyインタビュー vol.3~

データで支える分散型ワーク~Veldhoen+Companyインタビュー vol.3~

時間や場所に縛られない、新しい働き方として世界的に普及が進むアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)。そのABWについてより理解を深めるべく、ABWの第一線でプロジェクトを進めるVeldhoen + Company(以下V+C)のメンバーに取材を実施し、彼らが現場で見てきたリアルな様子をシリーズでお届けします。

第三弾となる今回のインタビューの対象は、V+C本社の代表を務めるRoel Geenen さん。ABWの本質やV+Cが手がけるデータ主導のアプローチの背景、またV+C社内で活用されている分散型ワークの運用方法について話を伺いました。

Roelさんの経歴

── Roelさんのご経歴を教えてください。

Roel はじめまして。V+Cでもう1人のオーナーと代表を務め、戦略・イノベーションチームのリーダーも務めている、Roelといいます。会社には2000年からいるのでもう23年目になりますね。最初の10年間はオランダの政府系プロジェクトを担当し、その後ヨーロッパで企業の案件を担当するようになりました。

私のモチベーションの源泉は読書です。自分でも本を一冊書いており、来年の秋に新しい働き方やその歴史について執筆した本を出版する予定です。その本では2040年に向けた展望も書いています。働き方やチェンジマネジメント、新しいテクノロジーなど、私の生活におけるあらゆるものに関する新しい気づきを得ることに常に興味を持っています。ビジネスだけでなく、プライベートな生活でもいろいろな要素を結びつけて考えるのが好きなんです。

私は常に小さなイノベーションを起こしたいと思っていて、頭の中で実験を重ねています。「これは斬新で良いアイデアだ」「ここで今試してみたい」と考えているのが私です。

ここ20年の働き方トレンドを振り返り5年後の未来を予測する

── 新しい情報や気づきを追求するRoelさんが見る、働き方のグローバルトレンドを教えてください。

Roel パンデミックは間違いなく大きな世界的変化で、多くの企業が新しい働き方を構築するきっかけとなりました。以前から進んでいた在宅勤務が一時のトレンドとして途絶えることなく、パンデミックによってむしろより一層加速しました。

これからオフィスの改装や移転、あるいは大規模な新しい働き方の導入を検討している方が知っておくと良いのは、このトレンドが途切れることはないということです。ここ20年のトレンドを振り返った上で5年後の未来を考えると、オフィスは今よりもさらに小さくなっている可能性が高いでしょう。私の予想では、オフィスと自宅のリモート環境の差は少なくなります。在宅勤務を行う人はさらに増え、デジタルツールで人とのつながりを感じるようになります。そうすると、管理職がリアル環境においてチームをまとめる役割は少なくなりますが、リモートワークを含めると彼らが管理する範囲は大きくなります。その対策として、組織内の知識(主に意思決定)が社内の階層ごとに異なる解釈をされることを避けるために、大規模なオンライン会議を実施することやそれに関連する会議文化を構築することが役割の大きな割合を占めるようになると考えています。

── なるほど。パンデミックによって働き方が大きく変わったわけではなく、もともとあった働き方トレンドを後押しする形になったのですね。

Roel 私はそのように見ています。このように社会的な動きを振り返るのは重要だと思います。実際に北米地域や、ヨーロッパ、オーストラリア、シンガポールは、このトレンドの線上にあります。パンデミックで受けた影響や在宅勤務の浸透度合いはそれぞれの国で異なりましたが、私たちが見てきた傾向のライン上にあるのです。

それを踏まえ実用的な考え方をするのであれば、私たちが言う「新しい働き方」とは実は新しくないと言えます。実際に私たちはこれまで20年以上にわたりこの「新しい働き方」における研究やデータ、経験を築いており、働き方プロジェクトのコンセプトや質は以前よりもずっと良くなっています。多くの組織が新しい働き方に興味を持つ今、私たちの知見を活かせる機会があることは大きなポイントだと捉えています。

── 「新しい働き方は実は新しくない」とありましたが、では私たちが今見ている最新の働き方を表現する言葉として、どのような言葉が良いと思いますか?

Roel 良い質問ですね。私が見ている地域はほぼヨーロッパですが、ここではほとんどの組織がハイブリッドワークという言葉を使っています。しかし私が先に挙げた本の中では、コラボレーションやリーダーシップに言及しています。これは私の個人的な意見ではありますが、新しい用語の中に「一緒に働くこと」や「共同創造」について記述があるといいですね。

ABWはオフィスコンセプトの話ではない

── Roelさんの本で触れたそのほかのトレンドはありますか?

Roel 本の中で、ユーザー・エクスペリエンスの重要性について触れています。ユーザー・エクスペリエンスに関する情報やそれをチームあるいは個人レベルで刺激したり高めたりする方法を得ることは比較的容易です。

このユーザー・エクスペリエンスは、アクティビティ・ベースド・ワーキングにおいて重要なポイントです。ABWは単にオフィスの使い方に関するコンセプトではなく、活動の視点から人々がどのように働き、どのように感じるかに焦点を当てる働き方のコンセプトです。しかし、今ではABWを採用する多くの組織がオフィスのコンセプトとしてABWという言葉を使っています。私たちはABWの創設者・専門家として、ABWはオフィスではなくワーカー個人に多くの影響を与えるものであると信じています。ABWがあくまで人間を中心に見据え、物理的空間、IT、行動の3要素に包括的にアプローチする働き方であることから、その認識の仕方について、ここで言及しておかなければいけないと思っています。

── 日本でもまさに同じような問題が起きています。先日ある展示会でも「ABWはフリーアドレスの一種」という説明を耳にする機会がありました。ABWをオフィス戦略としてではなく、真の意味で推進していくには地道な努力が必要です。

Roel ABWの捉え方に地域差があることは理解しています。

以前V+Cのウェブサイトでは、「アクティビティ・ベース(活動ベース)」である点を強調していました。アクティビティ・ベースとは、個人が意識的に、いつ、どこで、誰と一緒に過ごすかを選択することで、それが多くのクライアントの共感を呼びました。しかしこれを実現するには、個人やチームのエンパワーメント(権限移譲)が必要です。それが日本での展開に適切な引き金になるかはわかりませんが、権限移譲をマネジメントの一種と捉えるオーストラリアやイギリス、オランダではこれをきっかけにABWの展開が進みました。

しかし、北米では権限移譲をリーダーシップの一種と捉え、ABWを考えるきっかけとはなりませんでした。ABWやエンパワーメントとは、働く環境だけでなく、チームや個人、リーダーなどに対する影響に主眼を置いた定義をしっかりと行う必要があります。

私たちにとってもこの定義は模索中です。どのような形でABWを提示することが、みなさんに真のコンセプトを理解いただくきっかけになるのか。議論を続けていきたいと思っています。

── とはいえABWという言葉を聞く機会やコンセプトを理解いただいている方は以前よりも増えていると思います。この20年間でABWについて説明するのは簡単になったと感じますか?

Roel そうでもないと思います。なぜなら、多くの人が理解しているのはフレキシブルな働き方やオープンプランのオフィススペースといったトピックで、ABWそのものではないからです。しかしこのようなテーマでの説明はまだ比較的簡単な方だと思います。

まだまだ難しさを感じるのは、個人ごとの完全固定席のオフィスやグループごとに与えられた固定席オフィスから完全にフレキシブルなオフィスへの移行を検討されている方です。これはほとんどの人にとっては大きな一歩で、そのハードルの高さは私たちがこれまでインタビューやワークショップを提供してきた10年、20年前の人と同じくらいのものです。

しかし当時と今の一番の大きな違いは、データ、特にV+C独自の調査やMicrosoftのViva Insightsから得られる情報によって、10年前よりもはるかに多くのことを多角的な視点から見ることができる点です。つまり、勤務時間から勤務週数、リーダーシップへの依存度に至るまで、さまざまな働き方のパターンを見ることが可能です。それによって多くの課題を発見し、向き合い、挑戦することができるようになりました。

そのためこの質問に対する問いとしては、ABWの説明は簡単になったとは言えませんが、ABWと向き合いやすくなったと言えます。

V+Cが働き方データの活用に注力する理由

── データの活用は、V+Cが今年初めに発表した 働き方に関する二大予測 の中にも含まれています。先日の Marcoさんのインタビュー でもデータの重要性について触れましが、V+Cがこれほどデータを重視する背景は何でしょうか?

Roel おっしゃる通り、私たちは今年の初めに働き方を考える上で重要な2つの視点、実験の実施とデータの活用について取り上げました。この2つの視点は、働き方の習慣や作法をアップデートすることを視野に入れています。要は、働き方に関わる多くの関係者、ファシリティマネージャーや不動産担当者、人事マネージャーなどがアフターコロナを機に働き方がアップデートされることを期待して待っているということです。

このような変革やアップデートには、それをリードできる監督者やコンサルタントがいないと実行できない、もしくは以前の働き方に戻ってしまうことが私たちの調査でわかっています。パンデミックを通じてオフィスの必要性が以前よりも低いことがわかったことを考慮すると、これは機会損失と言えるかもしれません。

私たちが主張しているのは、パンデミックで学んだことを活用し、パンデミック以前の働き方のポジティブな部分と組み合わせることで、新しい組み合わせを探そうということです。逆に何もしなければ、ビジネスであれ、チームであれ、家族であれ、私たちは古い習慣に戻ってしまうものだからです。「変わりたい」「パンデミックで得た経験を次に活かしたい」「新しい機会と捉えたい」と公言しオープンな会話と情報の収集をはじめないと、もといた場所へと戻り成長の機会を失ってしまいます。

オランダでは、私たちは常に新しい働き方をリードする先駆者として活動してきました。そして他の組織も自分たちの責務を全うしようと新しい試みに向けて一歩踏み出そうとしています。しかし、大きな一歩とまではいかず待ちの姿勢からは脱却できていません。だからこそ、私たちは今ここで大胆に動くべきだと感じています。大きな組織が一石を投じてパイロット実験を行い、その影響をデータとして測定し振り返る機会を持つ。そのような意志を持って、4年前にMarcoをチームの一員として招き入れ、グローバル規模のリサーチ&データチームを持つようになりました。

データから課題を見ることで、今まで見えてこなかったものが見えるようにもなります。例えば、ヨーロッパではパンデミック後にチームのボンディング(=つながり)が不足しています。この問題をリサーチデータから掘り下げてみると、チーム・個人ともに抱えている一番の問題は情報の不足です。つまり、同僚たちと会って話す時間や会社での友好度ではなく、そもそもビジネス活動を行う上で互いにつながりを感じているか、ということが重要なのです。

例えば10のプロジェクトが同時に進められているチームで仕事をする時、その10のプロジェクトすべてを把握しチームメンバーを助けられるという感覚を持つことは今できるでしょうか?答えは明らかに「ノー」です。

こうした絆の欠如はアフターコロナ時代の働き方における問題となり、私たちの業界では「カフェスペースの用意が急務」「週に何日以上出社する」といった決定を行うことがよく見受けられます。たしかにこれは短期的な施策として有効かもしれませんが、問題に対する本質的な解決策とはなりません。だからこそデータに基づいた大胆な実験が必要となるのです。カフェスペースを作って対面で会う機会を持つ以外にも、デジタルツールやビジネス情報管理ツールを用いて情報共有を改善・促進するのも賢明かもしれません。

── データを活用すること自体が業界的にまだ新しく大胆な試みなのですね。新しいオフィスを構築する際に(かっこいい)デザインの観点から議論が始まることが今もまだ多く見受けられますね。

Roel そういう意味で、先ほど話した内容につながってきます。なんだか大胆な話をしているように思われるかもしれませんが、新しい働き方に目新しさはないんです。これまでのアプローチや私たちが蓄積してきたデータに基づいて、新しい働き方のコンセプトやその質は着実に向上させることが可能です。

Marcoの話に戻すと、彼はもともとオランダの大手通信事業会社のKPNでディレクターの一人を務め、社内の新しい働き方のリーダーも兼任していました。その時彼は私にこう言ったんです。「私は研究に没頭したい。KPNだけでなく、世界における働き方の分野で何が起きているのか、ワーカーが何を経験しているのかを知りたい。だから、世界的にも新しい働き方の分野で経験豊富で、各地でコンサルタントが活躍しているV+Cに入社したい」と。

当時私たちが探していたのは若手のコンサルタントでしたが、結果的にこれは私たち2人にとって良い機会だからやってみようと活動を共にする決断を下しました。その4年後の今、私たちは働き方のデータ分析やリサーチの分野に没頭する数少ない存在だと思っています。だからこそ、2年前にMicrosoftがヨーロッパにおける大企業のデータ・パーティとして私たちと協働することになったのです。

その経緯があって私たちはViva Insightsで得られるデータを日々分析し、ワーカーの働き方のパターンや人間関係、好みなどすべてを把握しています。他の企業よりもはるかに多くのインサイトを得ることができるという点で、私たちが持つデータの力はさらに強くなっていると実感しています。

目の前に部下がない状況で管理者としてチームをリードする方法

── 先ほど挙がった「絆の欠如」という点に話を戻したいと思います。日本では、在宅勤務をする人が増えたために、多くの人が「つながり」や「帰属意識」が薄れたと感じています。Roelさんはリーダーとして、部下やチームメンバーが分散して働いているときに、どのようにチームメンバーをサポートすればよいか、個人的な経験や教訓をお聞かせください。

Roel これにはV+Cで行なっているトレーニングやワークショップなどいくつもの方法があります。

その1つは、V+Cとして、また当社のクライアントとも共有していることですが、「コミュニケーションを取るときはオープンかつ正直に行うこと。そして、フィードバックを行うときは好奇心や興味を持って、コメントを提供したり受け取ったりすること」が大事です。特にこの組み合わせが重要だと私たちは考えています。

それを実践する場として、V+Cでは社内トレーニングを目的として月に1回リモートで互いの知見やケーススタディを紹介する"アカデミーデイ"と呼ばれる日を設けています。またヨーロッパチームでは年に2回、3日間かけて対面で行うアカデミーデイもあります。会話やフィードバック、それを通じた学びが生まれる重要な機会だからこそ、上に挙げたルールは参加者全員が徹底して守るようにしています。

この背景にはマトリクス・リーダーシップと呼ばれる考え方があります。マトリクス・リーダーシップとは、かつての1つのチームに1人のリーダーやレポートラインがあるのと異なり、1つのチームに複数のリーダーやレポートラインが存在するためにオープンで明快なコミュニケーションが必要とされる考え方です。ここで私たちが重視するのは、オープンなコミュニケーションはもちろんですが、自分の発言やアイデアが及ぼす他人への影響です。さまざまな要素が複雑になりやすいマトリクス型の組織の中でいかに正直かつオープンなコミュニケーションを取り、他の人の仕事の進め方を複雑・難解にしないようにするかが重要です。

── アカデミーデイはヨーロッパ以外の地域でも行われていますか?

Roel はい、他にもアジア地域のチームも同じようにやっています。ヨーロッパではそれに加えて"オフィスデイ"と称して3週間に一度月曜日に対面で仕事をする日も設けています。私たちは基本的に分散して仕事をすることが多く、仕事の60%はリモートで進めています。会議に至っても画面越しで行うことがほとんどです。ですから、お互いを本当に理解するためには直接会って話すことが必要だと考えています。そうしないと社内政治的な問題に発展しかねないので、お互いにオープンであるための一種の友情の感覚も必要なんです。

── このような場面でオフィスという物理的な空間も必要になるのですね。

Roel はい、100%必要です。私たちはV+C本社を置くオランダにもオフィスを構えていません。以前は日々対面で仕事ができるコワーキングスペースを用意していましたが、それでもチーム全員用の席数はありませんでした。だからアカデミーデイの日は夜にレストランで一緒に夕食を取ることを忘れずに実施しています。

最後に:日本に向けたメッセージ

── Veldhoen + Companyの代表として、日本市場におけるハイブリッドワークやABWについて、何かアドバイスがあればお願いします。

Roel 私からのアドバイスは、「大胆になれ」ということです。

日本には、新しい働き方の目標となる"ランドマーク"を作るためのデータや洞察力があります。日本における働き方のランドマークを作ることにフォーカスしてみてください。もちろん、私たちもそのお手伝いをしたいと思っています。

私たちには新しい働き方を支えてきた30年以上の経験があります。私たちは研究に投資し、最高の事例を作るための創造性と知見を養ってきました。V+Cの働き方サーベイやMicrosoftの働き方トレンドレポート、Viva Insights、センサーやビーコンを使ったデータなど、私たちが持っているすべてのデータソースをぜひご活用ください。働き方やオフィスの柔軟性に関するユーザー・エクスペリエンスについて、私たちは今何をすべきか。クライアントのみなさんとこれからも議論していきたいと思います。

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ABWとは、最も生産性が高く働ける場所、時間、相手をワーカー自らが選択する、自由度・柔軟度の高い働き方のこと。ABWについて考え、もっと理解できるトピックスが盛りだくさんです。