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データから見る働き方とABW
~Veldhoen+Companyインタビュー vol.2~

データから見る働き方とABW~Veldhoen+Companyインタビュー vol.2~

時間や場所に縛られない、新しい働き方として世界的に普及が進むアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)。そのABWについてより理解を深めるべく、ABWの第一線でプロジェクトを進めるVeldhoen + Company(以下V+C)のメンバーに取材を実施し、彼らが現場で見てきたリアルな様子をシリーズでお届けします。

第二弾となる今回のインタビューの対象は、V+C本社のあるオランダでデータリサーチ分野のグローバルリードを務めるMarco van Gelderさん。データからみる働き方とV+Cで進めているデータを使った3つのアプローチについて話を伺いました。

Marcoさんの経歴

── MarcoさんがABWコンサルタントになる前のご経歴を教えてください。

Marco 私は以前、オランダの大手通信事業会社、KPNの最高人事責任者(CHRO)の戦略アドバイザーとして働いていました。通信業界は過去30年から40年の間に登場した携帯電話やインターネットといったテクノロジーが人のつながり方を大きく変えたこともあり、働き方と大きな関連性のある業界です。ですから、私たちの組織はテクノロジーを使った働き方変革に常に魅力を感じていました。

このようにテクノロジーを実用化し、データを得て働き方変革のためにどのような活用方法があるのかを試したりする経験から、ABNやラボバンクといった銀行業界におけるKPNの最大手クライアント、キューネ・アンド・ナーゲルなどの物流会社、さらにはKLMオランダ航空などの航空会社など、多くのクライアントと仕事をするようになりました。またそのほかにもオランダには多くのテクノロジー企業があり、DSMからShellに至るまでさまざまな企業と連携しました。テクノロジーを活用した革新的な働き方の実践という私が本当にやりがいを感じるものに取り組むことができたのは幸運でした。

V+Cとはその頃から何度か仕事をしたことがあり、V+Cの創設者であるエリックとも交流がありました。そしてある機会をきっかけに私はKPNから次のステップに進むためV+Cに連絡を取り、自分のリサーチとデータにおけるあらゆる経験を持って、より本格的に働き方変革の実践に臨む道を選びました。

客観的なデータから働き方を振り返る重要性

── 働き方に関するデータ収集のアプローチは近年どのように変化していますか?

Marco 働き方のデータの扱い方が変わったきっかけはパンデミックです。

それまでの在宅勤務はシニアレベルや管理職といった一部の人にしか利用されておらず、まだ多くの人はオフィスで1日働き、夜に帰宅する働き方を行っていました。そのため私たちが活用する働き方のデータも基本的にはオフィス関連でした。ワーカーが物理的な環境をどのように使っているのかに注目し、どのようにそれを効率化できるかに焦点を置いていたのです。

しかし、パンデミックによって「場所」という重要な変数が切り替わり、仕事の様式に影響を与える他の変数も考慮することが必要になりました。これまで対面で行っていた多くの業務がオンラインやバーチャルに移行し、同期的だけでなく非同期的なコラボレーションも重要となったからです。

その結果として、ワーカーが何をしているのか、さらに言うと組織内で何が起きているかを把握することが以前よりも難しくなりました。この組織の複雑化とともに、データをこれまでとは別の視点で活用する機会が生まれたのです。ワーカーがオフィスで何をしているかという見方から、「どこ」で何を行なっているのかという新たな変数を考慮することで組織の行動パターンを把握するという、データ領域の新たな次元に移りました。

V+Cでは、Microsoftとのコラボレーションを開始し、バーチャルプラットフォームを活用してデータを収集しています。Teamsを利用して取材を実施している今この瞬間も、私たちが会議を行ったというデータはデータベースに保存されます。このデータベースを開いて調べてみると、ある特定の時間に始まった3人のミーティングがあり、参加者はみなドメインの異なる3人で、異なるタイムゾーンにいることがわかります。これはあくまで1つの抽象化レイヤーで、組織内や組織間の行動パターンを理解する機会を与えてくれるのです。

── なるほど。客観的なデータに基づいた働き方の議論を行うスタート地点に立てるわけですね。

Marco はい、実際に私たちはデータを活用して、クライアントの働き方そのものやパンデミック前後での変化、また生産性や社員のウェルビーイングといった要素への影響などを理解し、有益な発見を導き出せるよう取り組んでいます。これまでリモートワーク環境において高頻度で開催されるミーティングや集中作業を行う時間の確保の難しさ、長時間労働などが従業員の健康に影響を与えることがわかっています。このような仮想ワークスペースにあるデータは、ワーカーやマネージャー、経営層などさまざまな階層間での議論に大いに役立ちます。

私が興味深いと思うのは、このような働き方というテーマにおいて、誰しもが意見を持っていることです。議論の所有者というものは存在せず、みな働き方について異なる視点から話をします。不動産部門や人事部門、また会社のシニアリーダー層や一般従業員など、みな異なる関心を持っています。ですから、データ、その中でも特に客観的なデータというは、さまざまな利害関係者の橋渡し役として客観的な会話につなげるために役立つのです。

── その通りですね。データは、組織が人々の働き方を理解・分析し、より良い解決策を導き出すために必要なものです。一方で、人々は目的がないままに多くのデータの収集を始め、活用しきれないまま持て余してしまうこともあります。本当に必要となる客観的データはどのように収集すればいいのでしょうか?

Marco 良い質問ですね。データは美しいですが、最も大事なのはデータに対して適切な問いかけをすることです。それこそ、私たちがクライアントに提供するサポートの1つです。私たちがリサーチとデータの分野でまず行うのは、まさにクライアントに「貴社が直面している疑問やビジネス上の問題は何ですか?」と尋ねることです。

例えば、私たちは以前ある大手企業から相談を受け、新しい本社の再設計をサポートしました。このプロジェクトはパンデミック以前に行われたもので、通常4〜5年かかるような大規模なプロジェクトでした。リサーチで得られた当時のデータを活用しABWに基づいた本社の設計を行いましたが、その後パンデミックが発生し状況の把握が難しくなりました。

そこで、MicrosoftのOffice 365の利用状況に基づくデータを活用し、コラボレーションのパターンを分析しました。すると、大きな発見が得られました。パンデミック以前は、多くの人が対面で集まる大規模な会議が頻繁に行われていましたが、パンデミック後になると少人数のミーティングが突然頻繁に行われるようになり、またこうした会議は自部門内で行われていることが多いことがわかりました。

このデータ分析を通じて、私たちはクライアントが直面する課題や変化を理解し、適切な解決策を提案することができました。データは客観的な情報源であり、多様な視点からの議論を促進してクライアントの意思決定に根拠をもたらす貴重な武器となっています。

データ分析のアプローチ①:ソーシャルネットワーク分析

── その他にもデータ分析を通じてどのような発見がありましたか?

Marco パンデミック前後の働き方の変化に関するデータ分析を見ると、複数の部門間でのコラボレーションから部門内でのコラボレーションに集中するようになっていました。そのため、例えば1,000人から3,000人程度の多くの人が同じスペースを利用する場合、異なる目的に応じたコラボレーションを促進するための環境を再設計することが重要となりました。

またある日本のクライアントのプロジェクトでは、新しく導入されたハイブリッドワークの方針がワーカーの行動パターンにどのような影響を与えるか把握するためにデータ分析が行われました。詳しく見てみると、ハイブッドワーク自体は機能していたのですが、あらゆる業務や相談事などすべて事前に計画するという傾向から1日の大半が会議の時間で埋まり、個人で集中的に行う作業や効果的なコラボレーションに制約を与えていることがわかりました。そこで私たちは別の方法としてソーシャルネットワーク分析を導入することにしました。

ソーシャルネットワーク分析とはシンプルなアプローチで、ワーカーに「誰とコラボレーションしているか」と問うものです。例えばインタビュワーの2人は今回の取材に関する打ち合わせなどを含め多くのコラボレーションをとっていると思います。となると、2人の間にはとても太い線があることになります。一方、私とインタビュワーは今日初めて会ったばかりなのでまだ細い線しかありません。このような形で誰が誰とコラボしているかという、組織図には表されないインフォーマルな連携構造やパターンを可視化するものがソーシャルネットワーク分析です。組織の特性や課題を把握する上で役立ちます。

ソーシャルネットワーク分析

ソーシャルネットワーク分析の例。点は1ワーカーを表し、大きい点ほど多くの人と高頻度でコラボレーションを行っている。

このプロジェクトでソーシャルネットワーク分析を実施した背景には、この日本企業が単なる車の製造会社から、ユーザーのニーズの把握から商品企画、製造、車の販売まで一貫して担うオートモーティブ企業になりたいという想いがありました。つまり、チーム横断的なコラボレーションが非常に重要なのです。分析を通じてどの部署がどの部署とコラボレーションを頻繁に行っているか、イノベーションの前進を妨げているかを見られれば、物理的環境の再設計に役立てることができます。また、行動学的な観点からの解決策も等しく必要で、バーチャル上でどうすればもっと簡単にお互いを見つけることができ、より簡単にコラボレーションできるようになるかを考えることもできます。

このようにデータ主導のアプローチは、組織の働き方を理解し、適切な改善策を見つけるために重要な役割を果たしています。物理的な環境の設計や行動学的な観点から働き方を再設計し、より効果的なコラボレーションと生産性向上を実現することが可能になります。

── パフォーマンスをデータで捉えるには

Marco 先ほども述べた通り、客観的なデータは働き方の議論において、個人の主観でなく客観的な観点に基づいて会話を進めるのに役立ちます。先ほどはコラボレーションについて触れましたが、他に私が興味のある領域はパフォーマンスについてです。組織について語るなら、私たちはみなパフォーマンスを発揮するために会社に雇用されているからです。

パフォーマンスの方程式は、2つの重要な要素から構成されます。1つは生産性です。さらに生産性は有効性と効率性の2つの要素から成り立っています。つまり、私たちが組織目標を達成するために有効とされる業務やタスクを行えているか(有効性)と、それに向かってお互いに効率的に働けているか(効率性)が重要になるのです。これらの要素も今や客観的なデータを使って議論できるようになりました。

パフォーマンスの方程式に重要な2つ目の要素は、エンゲージメントです。もし組織に優秀な人材がいてもその人たちにやる気がなければ、言い換えるとエンゲージメントがなければ、高いパフォーマンスを引き出すことはできません。そのためエンゲージメントの把握も重要になるわけですが、生産性と同様にエンゲージメントにも2つの要素(=変数)があります。1つは部門やチーム内で人とのつながり(を感じているか)があるか、もう1つは他部門の人たちとのつながりがあるかどうか、です。ここに先述のソーシャルネットワーク分析の位置付けがあります。

このパフォーマンスに関する内容は、先日私がオランダの大企業の人事担当者やティルブルフ大学と共同で作成した論文でも触れています。ABWの基本的な考え方である「どのような活動を行うのか」という問いは重要で、その活動を行う「場所」については組織や個人ごとにさまざまな変数を加えることができます。そして、実際のパフォーマンスを見るときには、生産性の側面からコラボレーションがマネジメントスタイルや文化によってどのように影響を受けるかを理解し、またエンゲージメントの側面では、人々の適切なスキルやモチベーションを活かす機会を提供することが重要となるのです。

データ分析のアプローチ②:チームの成熟度スキャン

Marco このソーシャルネットワーク分析に加え、私たちは「チームの成熟度スキャン (Team Maturity Scan) 」と呼ばれるアプローチも持っています。

まだ日本では当てはまらないかも知りませんが、ヨーロッパではもともと異なる文化が混ざり合うことに加え、現在リモートワークによって個々人が分散して働く機会が増えたために、エンゲージメントにおける情熱の部分をどのように最大化できるかの議論が活発になっています。こうした議論のポイントにデータのアプローチを取り入れたのがチームの成熟度スキャンです。

チームの成熟度

チームの成熟度スキャンで使われる6つの要素をもとに、各項目を数値化して現状を把握する。

これも心理学の基本的なフレームワークで、自分が自分らしくあるための心理的安全性を感じられているかどうかをワーカー同士で話し合ってもらうものです。もし心理的安全性がないなら問題がどこにあるかを理解し、その観点からABWを促進する必要があります。この手法も決して使わなければいけないものではありません。しかし、データの観点から組織の働き方を振り返り、ABWの働き方を実現する上でより精度の高い議論を行うために役立つものなのです。

データ分析のアプローチ③:ヘルシーマインドプラッター

── 働き方の観点でいうと、パフォーマンス以外にも従業員の健康やウェルビーイングに関するデータ分析のアプローチは何かあるのでしょうか?

Marco これも先ほど述べましたが、私たちの働き方はパンデミックを経て多忙になりました。スケジュールは会議でぎっしり詰まり、長時間の仕事が普通となり、以前よりもウェルビーイングに対するリスクが増すようになりました。今や人によっては会議の入っていない早朝から働き始め、週末すら個人作業の時間に充てる人もいます。ときにはこのような働き方が必要になる時期があるかもしれませんが、持続可能な働き方とはとても言えません。

こうしたハイブリッドワークによる弊害のある働き方を見直す方法の1つとして、私たちはヘルシーマインドプラッター (Healthy Mind Platter)と呼ばれるワークショップを提供しています。このヘルシーマインドプラッターは、UCLA医学部 精神医学の臨床教授ダニエル・J・シーゲル氏が唱える、日々のメンタルウェルビーイングを作る7つの構成要素をもとに現状の働き方を振り返り、自分の健康にとって理想的な働き方の割合を考える、というものです。

ヘルシーマインドプラッターで重視される7つの要素

ヘルシーマインドプラッターで重視される7つの要素

7つの要素から現状の時間の割合を分析し、理想的な割合を考える

7つの要素から現状の時間の割合を分析し、理想的な割合を考える

ABWにおいてはワーカーの活動に注目しますが、このウェルビーイングの観点も含めて強調したいのが休息、つまり何もせず脳をリラックスさせる時間の重要性です。ある会議から別の会議へ移動するにも頭の切り替えが必要となり、かなりのエネルギーを消費します。集中作業を行うときも同じです。ハイブリッドで計画的に働くにはこうした自分の健康状態も含めた総合的な視点で考えることも忘れてはいけません。

これらの要素をバランスよく組み合わせることが、組織の成果を最大化するポイントとなります。そのため、データ手動のアプローチによって、効果的なコラボレーションや生産性向上を実現する手段が日々私たちのクライアントに提供されています。

最後に:日本に向けたメッセージ

── Veldhoen + Companyのデータの専門家として、日本市場におけるハイブリッドワーキングやABWについて、何かアドバイスがあればお願いします。

Marco 日本という国はとても魅力的で、美しい国や伝統があります。しかし、物事を最適化する方法を探している、またその方法に非常に興味関心の強い国のような気がします。その点において、データは非常に強力な武器になります。

現代の新しい働き方には、これまでにはなかった多くの変数を考慮した複雑なパズルの解決が必要です。これまで注目されてきたオフィスの物理的環境に加え、ワーカーが行う活動、その活動を行う上で好みの場所、さらにコラボレーションやエンゲージメントなど、いくつもの要素が挙がります。活動(アクティビティ)に基づいた働き方の議論を、データを用いてより活発にできれば、働き方の変革はもっとおもしろいものになるでしょう。

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ABWとは、最も生産性が高く働ける場所、時間、相手をワーカー自らが選択する、自由度・柔軟度の高い働き方のこと。ABWについて考え、もっと理解できるトピックスが盛りだくさんです。