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働き方 ABW TOPICS

中国のトレンドとアジア文化におけるABW
~Veldhoen+Companyインタビュー vol.1~

中国のトレンドとアジア文化におけるABW~Veldhoen+Companyインタビュー vol.1~

時間や場所に縛られない、新しい働き方として世界的に普及が進むアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)。そのABWについてより理解を深めるべく、ABWの第一線でプロジェクトを進めるVeldhoen + Company(以下V+C)のメンバーに取材を実施し、彼らが現場で見てきたリアルな様子をシリーズでお届けします。

第一弾となる今回のインタビューの取材対象は、中国・上海でシニア・ワークスタイル・コンサルタントとして活躍するMaggie Huさん。V+Cのコンサルタントになった経緯や中国での働き方トレンド、アジア文化でのABWの受け取られ方について話を伺いました。

Maggieさんの経歴

── MaggieさんがABWコンサルタントになる前のご経歴を教えてください。

Maggie 私はABWコンサルタントになるまですでに30年以上キャリアがありました。学生時代は工学を専攻し、エンジニアとしてキャリアをスタートさせ、その後セールスやマーケティング職を経験して、家庭の事情からバックオフィスの仕事に移りました。25年以上にわたり人事の仕事に携わり、採用やC&B(報酬や福利厚生の管理)などのさまざまな業務を担当してきました。また、シニアレベルの採用担当者として独立して仕事もしていました。

── ABWとはどのように出会いましたか?

Maggie ABWとの出会いは、LEGOで働いていた時でした。当時LEGOの中国オフィスでABWの推進プロジェクトがあり、これまでの人事領域の経験を買われてプロジェクトリーダーとして入社しました。

その経験を通じてABWに興味を持ち、プロジェクトが無事完了し2020年にLEGOを退職した後もABWに携われる仕事を探しました。そこでV+Cにアプローチして中国で独立コンサルタントとして働くことにしました。

私はコンサルタント業の傍ら、コーチングの専門家としても活動しています。プロフェッショナル・コーチの資格を持っているため、コーチングのスキルをコンサルタント業に活かしています。特にシニアリーダーとのコミュニケーションにおいて適切な質問やヒアリングを実施する場面でABWの方向性を導き出すのに役立っています。

── 初めてABWに出会ったとき、どのような印象を持ちましたか? またその認識はこの数年でどのように変化しましたか?

Maggie ABWは自由度が高い働き方という意味で西洋的な考え方だと感じました。ABWは自分や所属する組織の活動に応じて自ら働く場所や時間を選ぶという自律的な働き方です。一方、日本や中国、韓国などの国において一般社員は上司やシニアリーダーからの指示に従い、与えられた仕事を実行することが求められます。

ですから、ABWのように多くの自由や選択肢が与えられると、これまで自律的な考えを持っていなかったワーカーは戸惑うことがあります。突然、自分で決める必要があることが増えることで、どうしていいか分からなくなってしまうのです。以前は自分のデスクに戻り、バッグを置き、コーヒーを飲んで仕事を始めるという習慣があったのに、ABWになるとどのデスクに座ればいいのか、どのスペースを使えばいいのか、と立ち往生してしまうのは自然なことです。

インタビュワー アジア文化の企業にとって、「自由」というキーワードは重要だと思います。学校で私たちはルールに従うよう教えられ、会社でもそれは同じです。しかし、ABWの導入により働き方が変わることで「自分たちには選択肢がある」ということに気付くのです。また同時に、選択肢があるということは、自分自身で意識的に選択をする必要があるということでもあります。そうなると、ほとんどの人は会社の中で何が自由なのか分からなかったりします。これまでルールに従うことを徹底していた人ほど、ABWのコンセプトを理解するハードルが高いかもしれません。

中国の働き方について

── 中国の働き方トレンドについて教えてください。

Maggie 中国には北京、上海、広州といった、世界のトップ都市と肩を並べる規模の都市もあれば、地方や農村部の都市もあるため、中国のトレンドと言っても地域によってさまざまで多様だと思います。

パンデミックは中国でのハイブリッドワーク普及を後押しする要因になると思っています。パンデミック前、在宅勤務を考える企業は多国籍企業を除いて少なかったですが、現在では在宅勤務の経験を経てワーカーがその利点を認識するようになりました。彼らの意向や組織の生産性を考えると、リーダーや企業は在宅勤務に対して柔軟になるでしょう。ただし、生産性やウェルビーイングを向上させるハイブリッドワークには教育が必要です。

しかし、会社や組織ごとのハイブリッドワークの普及のばらつきは大きくなると思います。私が所属する多国籍企業では、ワーカーは在宅勤務に慣れ、それが普通になっています。しかし、国営企業や他の民間企業はまだ成長期にありパンデミック後の軌道修正やビジネスの存続に注力していて、在宅勤務やハイブリッドワークについて話している時期ではありません。中国の企業はさまざまで、成長期、成熟期、あるいは衰退期など会社のステージに応じた視点が必要です。

── 中国でのオフィス復帰はどのような状況ですか?

Maggie 長期間の在宅勤務を経て、多くのワーカーがオフィスに戻りたいと望む声が多く、オフィス復帰計画はポジティブに受け入れられています。しかし、在宅勤務のメリットも生活と仕事を両立させることが可能な点で少なからず感じているようで、多少の柔軟性もあった方がいいという意見も出ています。でも自由すぎるのも良くない。結局は、会社の方針によって決まると言えます。経営層としてもアメリカやヨーロッパのようにオフィスへの復帰が難しい状況を避けたいという考えがあります。

インタビュワー それは興味深い話ですね。日本ではオフィスに戻ることに明確な目的や理由をワーカーが必要としていて、企業の悩みのタネとなっています。

Maggie それはそれで理解できます。さきほどお話したように、私たちは各企業がどんな成長ステージにいるかを判断する必要があります。

私がいる上海と比較すると、日本はより自由を享受しているように感じられます。中国は日本と違うステージにいて、もともと自由などなかったため失うものもありません。日本では出社義務がでると在宅勤務など自分のものであるはずのものが奪われるような感覚を得るかもしれませんが、中国ではそれがそもそも当たり前の状態なので、違和感を覚えたり苦労したりすることもありません。

中国でのABWプロジェクトについて

── 最近の顧客から受ける相談や問い合わせにはどのようなものがありますか?

Maggie 中国でのABWプロジェクトの数はまだ限られていますが、そこで見る限りオフィス復帰計画に関する相談は多くありません。むしろよく聞かれるのは、リーダーシップ層におけるこれまでのハイブリッドワークに対する懸念です。

先ほども述べた通り、チームメンバーに自由を与えるとき、自分たちがその自由をどのように活用すべきか最初は分かっていません。ただ人は賢いもので、少しすると彼らもそのメリットに気づき、段階を追ってその社内ルールを悪用しようとする社員が出てくるのです。自宅で仕事ができればオフィスに行かなくてもいいという考えが生まれ、上司の監視から逃れることができます。すべての社員がそうだとは言いませんが、一部の社員には当てはまる傾向です。

またリーダーシップ層においても、中国の組織文化がトップダウンを好む背景から部下を信頼する文化がなく、彼らの自己規律も信じていません。そのため、在宅勤務という自分の目の届かないところで勤務時間が長くなり、生産性が低下しても適切なマネジメントの仕方や問題への対処法がわからないという問題が起きます。このような現場レベルのワーカー層とマネジメント層の両方の問題を私は多くの企業で見てきました。

インタビュワー 新しい働き方を導入する際は常にそのような懸念がありますね。ABWに限らず自由度の高い働き方を導入すると、一部の人が自由を誤用する可能性があります。ある日本のABWプロジェクトでは、個人としての働き方に集中しすぎるがあまり、組織やチームとしての働き方にまで意識が向かない人が一部いました。このような場合、私たちはチームとしての働き方を考えるトレーニングやワークショップを行い、個人の自由とチームの協調性のバランスを調整してチームとしての機能も確保する取り組みを行っています。

Maggie はい、それは中国でも同じです。自由な働き方を受け入れる際には、個人の自己管理能力とチームでの協力について意識を高める必要がありますね。

── Maggieさんが支援したパンデミック後のABW事例にはどのようなものがありますか?

Maggie 私が手掛けたプロジェクトの1つにドイツ系のメーカーがあります。規模としては比較的小さいですが、彼らが業界のリーダーとしての目標や目指すべき姿、それを実行する姿勢が明確で、プロジェクト全体はスムーズに進みワーカーはハイブリッドワークを享受しています。

この会社は2つの事業に複数のラインを持ち、各機能が確立して組織として成り立っていて、生産性の向上や従業員満足度を目的にABWの導入を進めました。そこで当時課題となったのは、全社的にABWを導入する一方で部門間でのコミュニケーションが限定的でサイロ化している点でした。各部門で働き方の変化を歓迎する人もいれば強く抵抗する人もいました。その中での私の仕事は、彼らの間で横のつながりをつくり、効果的な連携やコーディネーションを通じて変化を前向きに捉えられるよう組織に刺激を与えることでした。

このような場合、ABWは「何か変化を起こしてくれるもの」と捉えるのではなく、特定の変化や目的の実現を手助けする"Enabler"や"Helper"として考えることが重要です。例えば、彼らがハイブリッドワーク環境でのマネジメント手法を学びたい、チーム内で信頼する文化を構築したいと思えば、私たちもそのための変化の機会を適切に提供できます。しかし、「信頼など必要ない」「今そんな余裕はない」といった理由で変化に抵抗すれば、ABWにできることも限られます。

私は自分のコーチングスキルを通じて、クライアントがまず自身の変化の必要性を感じられるように意識しました。結果として、先ほども述べた通り、この組織は目標意識や課題意識、それを克服するための姿勢を明確にし、無事にABWを導入することができました。

── 基本的に人は変化を好まない側面もありますが、変わることを好まない、抵抗感を持つ人にはどのように働きかけましたか?

Maggie ご指摘の通り、人々がABWについて正確な理解を持たず、教育や情報の提供を受けていない場合、変化に対する抵抗が生じることがあります。それによってABWの導入に疑問を抱くのも無理はありません。そもそも何も知らされないというのはフェアではありません。

ABWは多くのバリエーションやアプローチが存在しますし、その意味や効果も組織と個人の間では異なります。それによって、理解が混乱したり誤解が生じたりすることもあるでしょう。私たちは、ABWについて明確な情報を提供し、その具体的な内容や個人としてのメリットまで説明することで、ワーカーに十分な理解を促す必要があります。ある別のプロジェクトではABWをスマートワークと呼び認識を浸透させようとしましたが、結局それがワーカー個人にとってどのような意味があって、何を意味するのか不明瞭なままで、新しい働き方を受け入れる姿勢や変化への意欲は一向に変わりませんでした。

場合によっては、個々人に合わせた教育や訓練を提供することも重要です。ABW導入の基盤を築く上で、ワーカーのABWに対する理解を深め、彼らの抵抗感を減らし、変化を受け入れる準備を一緒に整えることは必要不可欠です。

── そのプロジェクトを推進する際はどのような形で進められましたか?

Maggie 先ほどのプロジェクトではトップダウンで進められました。私の経験上、トップダウンの方が組織全体として働き方を統一させる上で導入が成功しやすいと思います。しかし結局のところは、ABW導入の目的や意図が明確にできているかどうかが鍵になります。よく誤解されるようなスペースとしての話、また単純に近年の新しい働き方と捉えるだけでいいと、プロジェクトが最後まで曖昧になってしまいます。

インタビュワー 日本では、オフィスと働き方が別の領域として議論されることがまだ多く、ワークプレイスが中心となるプロジェクトでは人事部の参画を得ることが難しいのが大きな課題の1つになっています。また多くの日本の組織では、トップダウンの企業でも一般社員から多くの反対意見が出ることがあります。経営層も含めて、すべての階層をプロジェクトに巻き込むというのは難しい。Maggieさんのコーチングスキルは、あらゆる階層や部門を巻き込んで信頼を得ながらプロジェクトを進めることに役立っていますね。

MaggieさんがABWに慣れた方法とは

── これまで上司から指示を受けて働いていた経験があると、指示がなくなったときにどのように働く場所や時間を決めるべきか難しいですよね。Maggieさんご自身は、どのようにABWの働き方に慣れたのでしょうか?

Maggie それはいい質問ですね。これも先ほど述べた通り、組織としてあるべき姿と、個々のワーカーの期待値や要求のバランスを取ることを意識しながら実践することが大切になります。私も実際のプロジェクトでの実践や自分自身での経験を経て理解を深めてきました。

1つは定期的に行うミーティングをいつ、どのように行うかをチーム内で話し合い決めておくことです。チームとしてのつながりを維持するために対面で行うのもよし。もしオンライン参加が可能であれば、ミーティング前までに事前確認が必要な進捗の確認等を含め、自宅やリモートワークを行う場所で環境を整理しておくとよいでしょう。

もう1つは、ミーティング以外の残りの個人として働く時間を意識的に計画し、新しい習慣を身につけることです。以前はオフィスに行ってすべきタスクをこなすことで個人の働き方を意識しなくても仕事が回る環境がありました。しかし、時間や場所に縛られない働き方では自分の時間や使うエネルギーを論理的に、もしくは個人特有の方法で整理する必要があります。

この点について、私はいつもコーチングの場面でさまざまな質問をするようにしています。生産性が高い時の自分はどのように働いているか。逆にエネルギーが減って仕事に集中できない時はどんな時か。このように聞くと「どうしてこんなことを聞かれるのだろう」「今まで考えたこともない」という反応をワーカーから受けますが、自身が効果的な1日を過ごす上ではとても重要な質問なのです。自分が計画しやすい仕事スタイルやエネルギーの使い方を知っておくことで、仕事だけでなく、プライベートや家庭での過ごし方まで1日の計画の中に組み入れてより良い時間の使い方が可能になります。

V+Cが提供するツールキットにはこのような働き方に関するものを用意しています。

最後に:日本に向けたメッセージ

── Veldhoen + Companyのシニア・ワークスタイル・コンサルタントとして、日本市場におけるハイブリッドワーキングやABWについて、何かアドバイスがあればお願いします。

Maggie 私たちV+Cが働き方変革を後押しするとき、それをABWと呼ぶのかスマートワークと呼ぶのかはさておき、まず一番重要なことを挙げるとすると、シニアリーダーとの連携です。ABWのプロジェクトでは、ファシリティ担当者以外にも人事部門やIT部門など複数部門の担当者との連携も重要で、シニアリーダーがABWをワークプレイスだけでなく働き方の問題として認識し、組織全体での推進力を持つことが必要不可欠になります。

また日本ではデータや成功事例が重視されると聞いていますが、これには注意が必要です。例えば、街中で美しい服を見つけたとしてもそれが必ずしも自分に合うとは限りません。これと同じく、各組織やワーカーにはそれぞれ特有の働き方やスタイルがあります。私たちのABWプロジェクトは、常に顧客のニーズに基づいてカスタマイズされていると理解いただくことが最善です。私たちは他社の働き方ではなく、あなたの組織の考え方や導き方をもとにABWが適切なソリューションであるかも検討した上でプロジェクトを計画します。

最後に、ABWが適切なソリューションであるかどうかは個々の企業の文化や準備状況によります。組織として目指す目標や要望が明確で、変革に前向きな準備が整ったとき、私たちは支援したいと思います。

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ABWとは、最も生産性が高く働ける場所、時間、相手をワーカー自らが選択する、自由度・柔軟度の高い働き方のこと。ABWについて考え、もっと理解できるトピックスが盛りだくさんです。