2026年6月23日
「もっと楽にできるかも」が改善のヒントに。現場主導で挑む、生産DXとスマートファクトリーへの道
「業務をもっと効率化したい」「改善したいことはあるけれど、何から始めればいいかわからない」――。さまざまな業務を抱える中で、そんな課題を感じる場面も多いのではないでしょうか。
「工場で働く人はかっこいい」。工場育ちの経験から抱いたその想いを原点に、後藤千春さんは現在、イトーキ生産本部で生産DXに取り組んでいます。現場に近い立場で役に立ちたいという思いから、RPA(業務自動化)を活用した改善活動を推進してきました。例えば、発注計画の作成業務をRPAで自動化し、それまで60分かかっていた作業時間を5分へ短縮するなどの成果を上げており、その取り組みは社内の業務改善事例を審査・表彰する『ビジネスイノベーション大会2024』で銀賞も受賞しています。
後藤さんが大切にしているのは、自分ひとりで改善を完結させるのではなく、現場のアイデアを形にしながら改善の輪を広げていくこと。今回は、その背景にある想いや、生産DXにかける思いを伺いました。改善したいけれど何から始めればいいかわからない――。そんな方が一歩を踏み出すヒントが詰まったストーリーです。
株式会社イトーキ 生産本部 生産DX統括部 SCM改革部 生産改革課
※2026年6月時点
後藤 千春(ごとう ちはる)
システム開発会社でOCRや業務システム開発に従事したのち、2019年にイトーキに入社。製造現場に近い立場で改善活動を推進。現在は生産DX統括部にて、スマートファクトリー構想に向けたデータ活用・業務改革に携わる。現場主導の自動化促進に向け、社内有志向けの取り組み「後藤学校」も実施している。
※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。
「工場の仲間になりたい」生産現場を志したキャリアの原点
私の原点は、実家の繊維工場です。赤ちゃんのころから工場に出入りしていて、機械と人が連携しながらものができていく流れを、ずっと見て育ちました。
当時、父からもらった道具箱は私にとって宝物でした。職人さんがレンチを使って機械を調整する姿がとにかくかっこよくて、私も「仲間になりたい!」と思っていたんです。ただ、子どものころは機械に触る機会は多くありませんでした。そこで見つけたのが、システムの世界です。
システムなら、体格や性別に関係なくものづくりに関われる。そう思ってエンジニアの道に進み、OCR(書類や画像の文字を画像解析を用いてテキストデータに変換する技術)やデータベース、業務システム開発に携わってきました。便利な仕組みをつくることに手応えはありましたが、その一方で「現場の本当の声を拾い切れていない」というもどかしさも感じるようになりました。
大規模なシステムを導入すると、業務全体に関わる根幹的な課題を解決することはできます。
ただその一方で、現場で働いている方が日々感じている小さな困りごとは、改善までつながりにくいこともありました。そこに課題を感じて、もっと現場に近い立場で役に立ちたいと思い、イトーキへの転職を決めました。
現場とデータをつなぐ生産DX、RPA改善で広がる協働
入社当時は、受注オーダーを生産計画へ引き渡す業務を担当しました。基幹システムで自動化されている部分もありましたが、一部は手動で抜け漏れが許されない工程です。責任の重い業務のなかで、「ここは自動化できる」「ここはもっと楽にできる」という改善の種を日々見つけるようになったことが、今の活動の土台になっています。
そうして日々のちょっとした業務の自動化を重ねていった結果、自分の仕事が思いのほか早く終わるようになって。空いた時間で班長室や現場を回って話を重ねるようになったんです。すると、「これもできる?」「こうなったらもっと助かるんだけど」と相談されることが増えていきました。
そこで、改善アイデアを出し合ったり、RPAのやり方を一緒に考えたりする動きが生まれ、次第に改善の対象が部門内にとどまらず、他部門へも自然に広がっていきました。これはイトーキじゃないとできなかったと思いますね。「やりたい」と思ったことを止めない環境があるんです。
私が最も大切にしていることは、自分が「教える」のではなく、「現場の人のアイデアを形にする」ことです。それこそが、現場主導の改善が加速するポイントだと思っています。
現在は、生産DX統括部でスマートファクトリーに向けた取り組みを担当しています。スマートファクトリーとは、工場内のあらゆる設備やシステムをネットワークで接続し、製造プロセス全体を最適化した次世代型工場のことです。現場に点在するデータをどう集め、どう活かし、どう循環させるか。そんな未来の工場をつくるための土台づくりをしています。
私は「現場の人が持つ改善アイデア」に価値があると思っていて。大きなシステム導入ももちろん大切ですが、日々の業務で起きる現場の細かな困りごとである「かゆいところ」を自動化することも、全体最適には欠かせないと考えています。
初回80名超が参加した「後藤学校」。教え合う文化を育てる仕組み
80名以上が参加した初回の「後藤学校」
RPAに関する学びの場「後藤学校」は、RPAに興味を持つメンバーとの勉強会から始まりました。そのうち、コミュニティを作りたいと思うようになり、上司に相談したところ、部門間教育のイベントとして開催することを提案してもらったんです。いざ告知してみると、参加希望が想定を大きく上回り、初回の参加者は80名超になりました。
最初は大きく募集はしませんでした。私がこだわったのは、「来たい人が来る」場です。指示を受けて参加してもらうのではなく、自分で手を挙げた人が集まる場にしたかった。それもあってか、参加者の熱量はとても高くて、参加者同士が自然に教え合ったり、わからないところをその場でフォローし合ったりするような動きが見えました。
勉強会終了後にはたくさんの人が集まってくれて、「ここがわからなかった」「次はもっとこうしてほしい」と具体的なフィードバックを多くもらえました。イトーキでは、失敗や指摘を「次の宝物」だと思っていて。良くなかった点は次の改善テーマになりますし、フィードバックがあるほど前進できます。
京都工場で開催したプチ勉強会
勉強会そのものが、イトーキの改善文化を体現する場になったと感じています。つねに「どうやったら良くなるか?」を考え、お互いにフィードバックし合える環境があるからこそ、私ものびのびと活動できると感じます。
RPAはとっつきにくいと感じる人も多いですが、あくまでExcel関数のような実務ツールなんです。専門的なプログラミング言語をほとんど書く必要がなく、誰でも触れられる。現場の担当者が自分で改善できる状態をつくることが理想です。
私がいつも伝えているのは、「全部覚えなくていい」ということ。まずはどんな機能があるかを眺めて、必要になったときに使えばいい。知識量よりも、現場のアイデアとワクワクを起点に動き出せることを大事にしています。
もともと草の根活動で個別対応や不定期の勉強会を実施していましたが、現在は拠点ごとに核となるメンバーができつつあるフェーズになってきました。今後はその方たちを中心に、さらに実践者が増えていく流れをつくりたいです。
イトーキならではの改善文化。目指すは「みんなでつくる改善」
イトーキならではだと感じるのが、改善の文化ですね。年に一度の「QCサークル活動」では、各チームが日頃の課題を持ち寄り、短期間で真剣にアイデアを出し合います。上司だけでなく、現場メンバー全員で「どうすればもっと良くなるか」を考えるので、改善が一部の人の仕事にならないんです。この文化があるからこそ、RPAのような新しい取り組みも受け入れてもらいやすいと感じています。
生産現場では、安全や標準を守る前提があるからこそ、改善アイデアに価値が生まれます。制約があるなかで工夫しつづける文化が根づいているので、小さな自動化の種も実装につながりやすい。私が現場を歩いて活動できるのも、その土壌があるからです。
今後は生産DXを通じて、現場で必要なデータを、必要な人がすぐ活用できる状態を目指していきたいです。大きな仕組みと現場の小さな改善がつながり、一人ひとりがDX人材として活躍できる工場へ。これからも「みんなでつくる改善」を軸に、挑戦を続けていきます。
- 所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。






