時代をしなやかに生き抜くためのキーワード「レジリエンス」をめぐる本シリーズ。5回目となる今回はズバリ「レジリエンスを高めるコツ」について、経済学者で国際大学GLOCOM准教授の山口真一さんと、イトーキ 先端研究統括部統括部長の大橋一広さんにお話を伺っていきます!
ものごとは、プラスに。その軸足には「感謝」を!
大橋 レジリエンスを高めていくためには、まずはポジティブであることが重要。でも、こんな状況だからというのもあって、ネガティブに陥りやすい人は少なくないですよね。
山口 ネガティブ思考に陥る原因について色々と考えるとき、行き着くのは「幸福とはなにか」ということではないでしょうか。言ってしまえば、「幸せ」であればネガティブ思考に陥ることは少ないはずなんですよね。
では、そもそも幸福とは何でしょうか。「年収」や「健康」という言葉が浮かぶ人が多いと思いますが、じつはそれよりも、新しいことに対して能動的に取り組んでいたり、家族や友人など他者との人間関係が良好だったりするほうが、幸福度を高めているという研究結果があるんです。
私が2014年と2016年に実施したネット炎上に関する調査でも、ネットに批判的な書き込みをする人は、意外にも「年収が高い」「主任・係長クラス以上」といった属性の場合が多いことがわかっています。同様に、高圧的なクレーマーに関する研究でも、クレーマーは高所得で社会的地位が高い傾向にあることがわかっています。
大橋 お金は十分にあっても、フラストレーションを抱えている人がいる……ということですね。
山口 そうですね。そして、その人たちはものごとに対して「感謝」ではなく「批判」を軸に考えている人だとも言い換えられるんです。
同じ年収でも、それに対して「うれしい」と思う人もいれば「自分はもっともらうべきだ」と思う人もいますよね。また、たとえば家族に対して「支えてもらって幸せ」と考える人もいれば、「自分の望みを100%叶えてくれない家族は嫌だ」と考える人もいます。
なんでも批判的に考える人は、ネガティブ思考になってしまいがちです。コロナ禍のテレワークに慣れず寂しいと感じる人もいるかと思いますが、ここは思い切って、この新しい状況をむしろ、「自分の可能性が広がる」、「マンネリ化した業務を改革したりするチャンス」と感謝してみる。そんな風に感謝を軸にすると、おのずとポジティブ思考になるんですよね。
大橋 そうですよね。僕も、レジリエンスには想像力が大事だと思っています。同じものごとを見ても、プラスに想像するか、マイナスに想像するのか、可能性は2つある。ものごとをプラスに捉えるということは、自分の想像に多様なオプションを持たせることかもしれません。
たとえば、ある問題に直面したときに「こういう解決法もある。でも、この解決法がだめなら別の方法もある」と、いろいろな想像ができると気持ちが楽になる。でも想像力が働かず、「この方法しかない」「これがだめならもう終わりだ」と思ってしまうと、プレッシャーを「いなす」ことができず、ストレスを抱えてしまう。
さらに言うと、この「多様なイマジネーション」には、経験や知見が必要になるんですよね。経験が少ないと、想像力の幅も狭くなってしまうので。
山口 そうですね。多様な経験をしながら、想像力を養うことがポイントですね。
大橋 「ダイバーシティ」と言葉では簡単に言うけれど、本当に多様な考え方を持てる人は、じつはそれほど多くないんじゃないかと思うんです。だいたい、みんな同じような、自分の経験や生きてきた尺度、価値観の中で、ものごとを判断しますから、『類は友を呼んで』。でもこれからは、多様性を自分の頭の中で想像してそれを許容して、受け入れ、活かす思考が大事なんじゃないかな、と思いますね。
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レジリエンスを巡る対談、次回はついに最終回。
「メンバーの多様性を上手に活かせるマネージャーの思考」について、お話を伺います。
この時代、どんなマネージャーが幸せをもたらせるのか。
ダイバーシティについて課題を感じる方にも、必見の内容です!