ABWとは?(基礎編)では、ABWの基本的な知識についてお伝えしました。実践編では、ABWの導入を検討されている方にむけて、ABWのメリット、デメリットをご紹介いたします。また、ABWの導入のためにはオフィスを改装すればいい、と思われる方も多くいらっしゃるのですが、実際のところ、オフィスを変えればそこで働くワーカーのマインドセットやふるまいが変わるわけではありません。ABWを成功に導く上で不可欠な要素とは何か、そしてABWを導入してから新しい働き方がワーカーに定着するまで、どのようなフェーズがあるのか、変革のプロセスについてお伝えいたします。
ビジョンの実現に向けたアプローチ内容
ABWの導入にはオフィス・IT・行動という3つの領域からのアプローチが重要です。1つでも欠けてしまった場合、ABWという働き方が破綻する可能性が極めて高くなります。
「オフィス」
主に建物・内装・家具などのしつらえのことを指し、オフィスのレイアウトやデザイン、家具の機能など目に見えるもの
「IT」
情報を編集・共有するためのITデバイスやシステムで、PCやスマートフォン、モニターなどのデバイスだけでなく、情報共有やコミュニケーションのためのアプリケーションやストレージに関わるシステムも含む
「行動」
組織のルールや習慣、企業文化、マネジメントスタイルのこと
「行動」という領域がなぜ大切なのか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。ABWを実践する上では、ワーカーが「いつでも、どこでも、誰とでも」働くため、他者との信頼関係を構築し、新たなコミュニケーションスタイルを構築していくことが重要になります。「行動」とは、管理職層向けにマネジメント方法やコミュニケーションの取り方等のトレーニングを実施したり、ワーカーを巻き込んで働きやすいルールづくりを行い、浸透させたりすることなどを指します。
そしてこれら3つの領域に着手する前に行う重要なポイントはビジョン(ありたい姿)の構築です。ABWに取り組む上では、目指すべきビジョン「なぜ自分たちがABWを導入するのか?」という理由が明確になっていないと、時間が経つにつれて、3つの領域をどこに進めれば良いのか分からなくなる可能性があります。
ABWのメリット・デメリットとは
ABWを導入した際の一般的なメリット・デメリットとしては、下記のようなものがあると言われています。
メリット
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従業員満足度が向上する
ワーカー自らが活動に合った場所を選択して働くため、個々の自己裁量が高まり、満足度が向上します。ABWの導入前と導入後を比較すると、ABW導入後のワーカーの従業員満足度は10%向上したという結果が出ています。
※出典1 -
生産性が向上する
業務の内容を10の活動に捉え直し、その活動に合わせて働く場所を変えることで、効率良く働くことができます。例えばまず一人で集中して業務を行うために高集中をサポートする環境へ行き、その後少し休息を取るためリラックスできる環境で次の業務を行うための活力を養い、最後に複数人とアイデア出しをするために議論がしやすい環境を選ぶ、という形です。実際に活動に合わせて複数の作業環境を選択することが出来る、ABWの働き方をサポートされた環境下で働くワーカー(以下、ABW環境下のワーカー)はそうではない非ABW環境下のワーカーより生産性実感割合が15%高いという結果が出ています。
※出典2 -
アイデア・知識の共有がしやすい
同じ部署のメンバーだけでなく、他部署のメンバーと近くの席で働く機会が増えるため、偶発的にコミュニケーションがとりやすくなり、新しいアイデアが生まれやすくなります。実際に、ABW環境下のワーカーの74%が同僚とアイデア・知識を共有しやすいと回答しています。
※出典2 -
企業イメージが向上する
画一的なオフィスと比較して、各活動に合わせた専用のスペースが配置されているオフィスは、ワーカーの満足度だけでなく、新しい働き方を導入するパイオニア企業として社外へポジティブな情報発信をすることができます。ABW環境下のワーカーは、非ABW環境下のワーカーと比較して、職場のデザインがビジター、クライアント、採用候補者の抱く企業イメージによい影響を与えたと回答する割合が12%高くなっています。
※出典2 -
組織の柔軟性が高まる
ABW導入の際には、オフィス環境やICT環境の見直しだけでなく、ワーカーの行動変容の見直しも重要です。ワーカー一人ひとりの働き方を変えていくことで柔軟な組織文化が醸成されます。ABW環境下のワーカーの81%が、組織の文化が柔軟な働き方をサポートしていると答えています。
※出典2 -
オフィスコストの削減に寄与する
ABWはオフィス以外を含めて、最も生産性の高く働けると思う場所を選択して働くため、オフィスには在席するワーカーの人数分の個人作業席は必要ありません。そのため活動をサポートする環境を見直し、コラボレーションの席を増やしたとしても全体の面積が減り、コスト削減に繋がる可能性があります。実際に過去ABWを導入した企業は平均でオフィスコストを10~15%削減できたと回答しています。
※出典1
※出典1:ヴェルデホーエン社
※出典2:The
rise
and
rise
of
Activity
Based
Working,
Leesman,
2017
デメリット(導入までのハードル)
ABWを導入するまでに下記のようなハードルがあると言われています。「ABWの働き方をすることにデメリットがある」ということではなく、より良い働き方に向けて、これらのハードルを解決することに労力や時間がかかります。
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どこに誰がいるか分かりづらいため、マネジメントの方法を変える必要がある
管理者の目線で考えると、オフィス内にとどまらず自宅やサテライトオフィス、カフェなど働く場所が多様化することで、目の前で部下をマネジメントすることが出来なくなります。そこで「部下が今どこで何をしているのか?」そのような不安・懸念を解消するために、信頼関係を築く「コミュニケーションマネジメント」とはで紹介しているように、ABWの働き方に合わせてチーム内でのコミュニケーションの取り方やマネジメントのルールを作る「チームの合意」を行う取り組みが重要になります。チームメンバー全員で約束事を決めることで、チームの信頼関係構築を加速させます。
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連帯感・帰属意識向上の取り組みがより必要になる
ABWの働き方では、オフィスに行っても自分が働く席の周囲に必ずしも同じ部署のメンバーがいるわけではありません。さらにテレワークでは会社の同僚がいないという状況も多くなります。そうすると従来のような「会社や部署の雰囲気を感じながら働く」といったことはできなくなります。「週に1回のペースで上司と部下の1on1の時間を設ける」「チーム内で雑談する機会をつくる」など、メンバーと交流する機会を増やすような組織の連帯感や帰属意識が高まる取り組みを意識的に行うことが重要になります。
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ABWの導入目的を浸透させる必要がある
ABWという働き方を行うには、ワーカーが自律的により良い働き方を考えるマインドを醸成する必要があるため、ABWを導入する目的を共有することが重要です。導入背景・目的が共有されないと、ワーカーたちも働き方を変える意義が見いだせず、いつも同じ場所で働いてしまい、周囲も活動に合わせて場所を選ぶことが出来なくなります。結果として、ABWを導入しても想定していた効果が得られなくなる可能性があります。
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初期投資のコストがかかる
ABWの働き方に移行するにあたって、オフィス面・IT面・行動面の見直しを行うことから、初期投資のコストがかかります。
<オフィス面>
音・光・視線・作業姿勢、全ての要素が活動ごとに最適化された空間づくりのためのオフィス改修やデスクやチェア什器の購入が発生します。
<IT面>
モバイルワークが中心となるため、ペーパーレスを推進し、社内外どこにいても必要な情報へアクセスできるような環境構築や業務やコミュニケーションをオンラインで行えるITツールの整備、およびセキュリティ対策が重要です。
(参考記事:「リモートワークやABWには不可欠!「紙に依存しない働き方」をどう実現するか」)
<行動面>
柔軟な働き方やマネジメントスタイルを浸透させるために、勤怠管理や評価制度、テレワーク制度といった人事制度の見直しが必要になります。
具体的な実践に向けて
ここまでABWの一般的な考え方についてご説明してきました。ABWの導入の際は、ビジョンの構築をはじめ、オフィス・IT・行動の3領域の計画と必要な取り組みは多岐にわたり、適切なステップを踏んで導入していただくことがとても重要です。
イトーキは、ABWの創始者であるVeldhoen + Companyと2019年より業務提携し、ABWコンサルティングサービスを展開しております。
当サービスの特徴は、ワーカー個人の「活動」へ着目し、その活動全てに対して適切な空間・IT・行動の3領域をサポートすることで、より効果的な仕事の仕方に変えていきます。
具体的な行動の変革に向けたアプローチを下記4つのフェーズにわたって実施しています。
フェーズ
1
将来に向けてのビジョン策定、現行の働き方についてのデータ収集・分析
フェーズ
2
社員参加型での、オフィス・IT・行動の3領域を統合した要件定義
フェーズ
3
新たな働き方を具現化する統合されたプログラムマネジメントと組織変革
フェーズ
4
新たな働き方への移行度合の評価と発展
全てのお客様に適用できる決まった計画や方程式はありません。3つの領域をお客様の活動の実態や目指す方向、目標などに合わせて綿密に作り込んでご支援させていただきます。ABWの導入を検討中の方はぜひお問い合わせください。