ABW(Activity Based Working)でもテレワークでも、マネジメント上の一番の課題として立ちはだかるのが「信頼」というキーワードです。目の前で部下が仕事をしているかどうかが目に見えないと本当にしっかり働いているのか不安だ、など管理職の方はマネジメントの難しさを身に染みて感じていらっしゃるのではないでしょうか。パーソル総合研究所「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」(2020)でも、テレワーカーのマネジメントに関する上司の不安について「業務の進捗状況がわかりにくく不安に思うことがある」という回答をした上司層が46.3%と最も多かったことが報告されています。また出社者がテレワーカーに対して抱いている疑念や不満の第1位は「仕事をさぼっているのではないかと思うことがある(34.7%)」という結果が出ています。またこういった疑念に対応してか、部下のPCの画面をランダムに送信して監視するようなツールなども登場してきています。
一方、ワークスタイル変革を30年以上手掛けてきたVeldhoen
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Companyは、「Trust,
a
skill
to
learn(信頼、それは学ぶべきスキル)」という記事を公開しています。記事内では、リモートワークにあたって個人の設備やツール、家族との関係性などの課題は、時間や慣れによって解決されると前置きしたうえで、リモートワークを行うチームをマネジメントするために必要なことについて、下記のように語られています。
(以下、斜線で示した記事内の英語の翻訳は本コラムの執筆者によるものです)
さまざまな場所に分散して働くチームメンバーを管理する現代のリーダーにまず求められるのは短期的・長期的な戦略を明確にする能力です。各メンバーの役割や目標、責任の所在を明確にする必要があります。メンバーといつでもコミュニケーションを取れるようにしておき、既存の問題や課題について話し合えるようにしておかなければなりません。それと同時にメンバーに対する信頼をはっきりと指し示す必要もあります。中国の古い格言に「用人不疑,疑人不用」というものがあります。これは「一旦仕事を任せたのであれば、その人を信頼し、疑わない」という意味です。
これまでの働き方では誰もが理解していた考え方です。リモートワークで互いに顔を合わせていない時はどうしてこの考え方に沿って働くことができないのでしょうか?簡単なように聞こえてしまいますが、実際のところ率先して真の信頼のリーダーシップを取り入れるには複雑な課題があります。信頼はチームスピリットの強力なスパイスであり、信頼することにおいて優れたスキルを発揮するチームリーダーはチームメンバーからも信頼され、尊敬を得ることができます。そのため、信頼とはトレーニングを受けたり、深い内省の時間を持ったりするのに値するスキルですが、残念なことに見過ごされがちなのです(意図的に見過ごされている可能性もありますが)。
思い返すと、私たちはよく、「○○さんは信頼できる」「この人は信頼できない」などという表現を使い、「信頼」できるかどうか、ということを相手の属性や性質のように捉えてしまいがちです。しかし「信頼関係を構築するスキル」があるかないか、と問われたとき、より自分事として内省することができるのではないでしょうか。
「信頼関係」を構築するための行動とは?
当社の本社でABWを実践するとなったときも、管理職のワークショップで出た懸念がまさに「信頼」でした。前述の「サボるのではないか」という不安に加えて「部下の心身の不調のサインがキャッチできなくなるのではないか」「部下が何か業務上のトラブルの火種を抱えているのに気が付けないのではないか」など様々な不安を、多くの管理職が口にしていました。
そのような懸念を解消するために有効であった取り組みの1つとして「チームの合意」というものをご紹介したいと思います。これは各部署で、管理職のファシリテーションでワークショップを実施し、コミュニケーションの取り方や、業務の進捗状況などの把握の仕方、新しいメンバーの受け入れ方などについてチームのメンバー全員で合意し、約束事を決めておこうというものです。
この取り組みが効果的だと感じる点はいくつかあります。まず、合意を決める過程において、お互いが仕事をする中で感じているモヤモヤを共有することが、信頼関係を築く第一歩となります。同僚が「実はこんなことを感じていたんだ、不安に思っていたんだ」ということに毎回気づかされますし、それを知ることによって相手目線に立ったコミュニケーションに一歩近づくことができます。また同じチームの中であっても日々の業務の性質上、自分から見てつながりが多い人・少ない人はどうしても出てきてしまうものですが、このチームの合意を通じて、普段つながりの少ない人とも同じテーマについて腰を据えて話し合うことで、関係性を底上げすることができます。
また「チームの合意」は一度決めたら終わり、ではなく必要に応じて定期的に見直していくもので、うまくいっていることは続け、そうでないことは変えていきます。そうすることで単にこれまでとは違うふるまいを押し付けられるのではなく、裁量と納得感を持って新しい働き方の実践に取り組むことができます。特にコミュニケーション上の課題について話し合うことで、自然とITツールの使い方の議論に発展することも多く、新たなツールを使っていこうという機運が生まれるチームも多くあります。また異動などでメンバーが変われば、別の部署で行っていた取り組みなどが持ち込まれることもあり、シナジーが生まれます。
さらに実際にコミュニケーションの頻度や仕方を設定することで「若手の相談のタイミングが遅い」といったような悩みも改善することができます。例えば当社の管理職の中には、毎朝短時間でブリーフィングを行う、曜日と時間を決めて部下からの相談時間を確保しておく、定期的に1on1の時間を設けるなどの工夫を、部門の特性に合わせて自主的に実施しています。またトラブルの際も緊急の場合の連絡方法を決めておくことで、部下からも連絡しやすく、また上司も優先順位を適切に判断して対応することができます。
今までは果たして「信頼」できていたのか?
この取り組みを約2年間行ったうえであらためて考えてみると「これはABWを実践する、しないに限らず必要なことだったのでは?」「今までは果たして同じ空間で働いているだけで、信頼関係は構築できていたのだろうか?」と疑問に感じます。管理職の「部下の仕事の進捗が分からない」「部下の心身の不調をキャッチできない」という悩みは、従来型のワークスタイルでも起きていた問題であり、ひとえにそれを把握するコミュニケーションのルールや仕組みがなかったために起きていたのではないかと思うようになりました。
当社が全国のワーカー約5000人を対象に行ったワークスタイル調査では、5種類のコミュニケーションについて「専用の時間を設けて行っている」「日常会話の中で実施している」「実施していない」のどれにあたるかを聞きました。結果をご覧いただくと、全体として各種のコミュニケーションについて、「専用の時間を設けて実施している」とする回答は少ない傾向にあります。また「心身の状態の確認」「メンバーの育成や教育」「将来のキャリア形成」「強みや改善点のフィードバック」については、役職者と役職なしのワーカーで認識が異なることが分かります。すなわち、役職者が「日常会話の中で実施している」と考えていても、部下にはそれが伝わっていない、実施していると捉えられていないという可能性があることが結果から読み取れます。もしそのような状態のまま、テレワークなどバラバラの場所で働くワークスタイルに移行した場合、「部下の心身の不調のサインが分からなかった」「若手社員の育成に課題を感じる」といったことは当然起こり得ると思います。
ABWでもテレワークでも、目の前にいないチームメンバーをマネジメントするためには、意図的にコミュニケーションの機会を設定し、暗黙の了解や暗黙知を可視化していく必要があるのだろうと思います。それはこれからオフィスで働く時間が増えたとしても有効に機能するはずです。
このように、働き方の大きな変化にあたっては、オフィス環境やIT環境はもちろんのこと、コミュニケーションの仕方やマネジメントの仕方をあらためて見直し、スタイルを変化させていくことが非常に重要になります。そういった様々な領域のトータルサポートを当社のABWコンサルティングサービスでは行っておりますので、ご関心のある方はぜひお問合せください。