“本物の木”にこだわった理由とは Feels 開発の裏側

制約と向き合いながらも、“本物の木”にこだわった理由とは――Feels 開発の裏側

居心地のよい職場への関心が高まる中、自然素材の活用は、人を惹きつけ、オフィスに自ずと人が集まってくるための仕掛けになっています。木質パーティション「Feels(フィールス)」 は、みんなが気持ちよく働くことのできる居心地のよい環境をつくり、生産性向上にもつながるプロダクトとして2023年12月に誕生しました。

本物の木が持つ居心地の良さを最大限に引き出しながら、安全性を重視して不燃であること、高い品質を保つため、試行錯誤を繰り返したプロダクトの開発背景に迫ります。

河村 匡人

商品企画担当

河村 匡人

山本 龍

プロダクトデザイン担当

山本 龍

菊池 有紗

CMFデザイン担当

菊池 有紗

川井 達樹

設計担当

川井 達樹

築山 元洋

調達担当

築山 元洋

坂尾 維彦

生産担当

坂尾 維彦

金崎 兆生

品質保証担当

金崎 兆生

※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。

本物の木が持つ居心地の良さを、活きる建材で実現

「Feels(フィールス)」は、内装の木質化に対応した木質系不燃パーティションです。建築分野では、木造化・木質化が進み、内装にも木を用いる潮流が生まれ始めています。Feelsはそのニーズに応えるため、突板(つきいた)仕上げで開発しました。

コロナ禍を経て「再び集まりたくなる」ような、居心地の良い空間。そして「高い集中力」「発想力向上」「ストレス軽減」といった価値が求められるオフィス空間を実現します。

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天然木が創る、唯一無二の表情

一般的なスチールパーティションは、スチールやアルミで構成され、無機質になりがちです。
一方Feelsは、その表面にスライスした木材を貼り付けることで、空間に柔らかさと温かみをもたらします。同じ木はひとつとしてないからこそ、唯一無二の居心地の良いオフィス空間が広がります。

1. フレーム意匠

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まるで無垢の木枠に見えるディティールへのこだわりを、金属基材に突板を貼り付けることで、素材感を忠実に再現しています。

2. 無垢材さながらの質感の木枠

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無垢材さながらの質感を再現した細部へのこだわりが、上質な木質空間を演出します。統一感のあるデザインでありながら防火性も両立。オフィス空間の木質化をスマートにコーディネートできます。

3. ラインナップ

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国産材、外国産材の4種類の仕上げをラインナップ。木造建築物や内装の木質化に幅広く対応します。

理想は“本物の木”。リスクを道標に乗り越えたゴール

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オフィス空間でも木材利用が増えている理由

脱炭素社会の実現に向け、木材利用はこれまで以上に加速しています。公共建築物に限られていた木材利用の促進に関する法律も、近年は建築物一般に拡大しました。

木材を利用することで、森林所有者に利益が還元し、持続的に森林を守ることにもつなげることができます。このような外部環境の変化と、素材と技術の進歩、木の素材が持つ心地良さの観点から、建物の様々な部位で木造化・木質化が進んでいます。

材料技術の進歩や建築基準の合理化により、建築物の構造・仕上にも木材を活用する動きが広がり、内装のパーティションの世界でも木質化のニーズに対応する必要性を感じていました。

オフィスに求められる「居心地の良さ」

オフィスには、快適さやコミュニケーションの取りやすさといった「居心地の良さ」が求められるようになってきています。
“居心地の良い空間”を紐解き、議論を交わすことで辿り着いたのは木の持つ温かみと柔らかさ。Feelsは、それらを最大限に引き出す新しいオフィス空間を作る──実現したいゴールはそうして決まりました。

「本物の木」を選んだ理由

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商品企画を担った河村さんはこう語ります。「パーティションの一部だけ本物の木にする、柔軟性や加工のしやすさから、全て塩ビシートにする、という選択肢もありました。木材は扱いが格段に難しく、高価です。でも、内装における木質の価値を追求するなら“本物であるべき”だと考えました。そこにリスクがあっても、“イトーキにしか実現できない”と思われるプロダクトを作りたかった」

リスクを一つずつ超える

困難な道であろうと、イトーキでなければ作り出せない「空間」にこだわりました。施工しやすい箇所は「木」、枠などの施工が難しい箇所は「塩ビシート」のようにチグハグなデザイン設計では居心地の良い空間には至らない。

そのような厳しい条件の中で焦点が当たったのが「突板(つきいた)」という方法でした。「突板」は木材をシート状にスライスし、フレーム素材の表面に貼り付ける加工方法です。室内での木材利用において課題だった不燃性をクリアしながら、本物の木も使うことができます。

本当にふさわしい素材は別にあるんじゃないか

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それを聞いた金崎さんは、品質保証の立場から考え得るリスクを上げていきました。「木を突板にしてパーティションの形に曲げたら割れてしまう。場所によっては日焼けもする。本当にふさわしい素材は別にあるんじゃないか──。それでもリスクを一つずつクリアできたら、今までにない居心地の良い空間を生み出すことができるはず」
リスクをあえて道標に、前例のない挑戦が本格的に動き始めました。

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“本物の木”の魅力を最大限に生かすために、これまでの考え方は通用しない

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細いフレームでは木に見えない

デザイン担当の山本さんは「フレームが細すぎると木に見えない」と気がつきました。「現在の主流の“細いフレーム × 大きいガラス面” のデザインは一見スマートですが、この細さの木がガラスを支えられるはずがないと、人の目で見抜いてしまいます。

突板でも、まるで無垢材のように見せる

「たとえ突板でも、まるで無垢材でできているように見せる。そこがデザインの力じゃないですか」と山本さんは語ります。今までの考え方とは異なる木として求められるフレームの太さ・デザインの模索が始まりました。

「さまざまな太さのフレームに突板を貼って試作を作りました。実際の木造建築を参考に試行錯誤を繰り返します。中でも、商業店舗や住宅の木フレームでよく見られる中間の横桟は木の間仕切りでよく使用され、木質空間らしい表現として採用しました。

また、他の間仕切り商品では、遮音性を高めるためにダブルガラスを用いていましたが、木を想起させる表現としてシングルガラスのみ採用しました。」

パーツから空間まで、一貫した“居心地”を設計する

CMFデザイン※担当の菊池さんは語ります「こだわったのは樹種(木の色あいや木目)選定だけじゃないんです。木を主役にするための周辺部材のCMFも重要でした。

木目の色合いが先に目に入ってくるデザインにするために、ビスをはじめとした細かいパーツが木と調和している必要があったのです。

CMFの判断の軸になったのは、Feelsの企画の原点でもある“居心地の良さ”に通ずるかどうか。そして、木目の並べ方も天地を入れ替えて貼り合わせる“ランダムマッチ”を採用することで、一層天然素材としての魅力を引き出しました」

山本さんは“木に見える”デザインにこだわり、菊池さんが“居心地の良いCMF”にこだわり抜いたことで、Feelsの輪郭が浮かび始めました。

  • CMFデザイン:製品のColor(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の3つの要素をデザインする専門分野。

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設計と生産が向き合った「現場のリアル」

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未確定ばかりの試作品第一号

設計の川井さんは打ち明けます。「試作品第一号を作ったとき、ほとんどすべてが未確定でした。
通常、試作はすべての要素が固まってからスタートしますが、Feelsの製造では机上だけでは進まなかった。枠のデザインや引き戸も決定していないが、直接目で見て触れられる第一号が生まれ、設計のイメージは加速し始めました。

試作品第一号では、角度によってフレームのアルミ部分が見えてしまうことが発覚。360度から見渡せる試作品がなければ気がつけない。その後も試作を通じた様々な発見を活かし、オルガテック東京※での展示とイトーキ本社オフィスでの設置を目標に基本設計試作を進めました」

  • オルガテック:ドイツ・ケルンで70年以上の歴史を持つ世界的なオフィス・商空間デザインの国際展示会「ORGATEC(オルガテック)」の日本版。オフィス家具、建材、ICTテクノロジーなど最新のトレンドが集結し、働く空間とデザインの未来を探求・発信

そこはゴールではなく始まりだった

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調達の築山さんは試作品第一号を製造した際とは異なるメンバーの緊張を肌で感じ取っていました。

築山さんの役目は、ゴールに合わせて必要な部材を調達することでした。短いスケジュールで取引先に依頼しながら、なんとかオルガテック東京での展示と本社オフィスでの設置に間に合わせたFeelsの製造でしたが、そこはゴールではありませんでした。

まだまだ、お客様には届けられない

「パーティションのアルミ角は直角なため突板が割れてしまう。そのため、木に見える絶妙なバランスを模索しながら丸みを持たせました。また、角が丸まる分、フレームは細くなってしまうため、小口からアルミが見えないよう再度調整。

この形ならば問題ないと太鼓判が押せるまでに新規で作製した金型の数は十九を数えます。“ものづくりは常にトライアンドエラー”。一見遠回りにも思える、作って確認し調整するルーティンこそ、完成への最短ルートでした」

変化を楽しめる素材、木の可能性はさらに広がっていく

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「このままでは駄目だ」

生産技術の坂尾さんは言います。
「美しい見た目、使いやすい設計になっていたとしても、安定的に量産できなければ意味がない。それに、熟練のプロだけが製造できる製品では駄目なんです。どのような方法を用いれば、素早く正確に突板施工を行えるかを模索しました」

厳しい品質基準と木目のもつ “一点物”の顔

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品質保証の金崎さんは、最終段階でも厳しい視点を崩しませんでした。
「木は一枚として同じものがないため、品質を安定させるためにはきめ細かな連携が欠かせません。量産の過程で、一定の品質を保ちながら、“木らしさ”を損なわないよう様々な工夫が凝らされています。

突板の外観品質基準を厳しくするほど、幅広い顔を見せる天然素材としての面白みも失われてしまう。日焼け・経年変化・曲げ加工・施工現場での扱いなど、想定されるリスクに対して徹底した検証を実施しながら、製造工程で生じる課題の解決に奔走しました。

Feelsはそれぞれの木目のもつ顔を“一点物”とし、そのよさをお客様に伝えられるように生産過程に工夫を凝らしました」

本物の木がつくる、居心地の良いオフィスへ

「それが自分たちだけの居心地の良いオフィス空間にもつながるはずだと信じています。変化していく素材を生かし、変化していく製品を届けていきたい。お客様と時代が求めるなら、今後はもっと難しい素材でも挑戦してみたいですね」

「Feels」の製造という大きな挑戦は、まだ私たちにとっての第一歩。灯った挑戦心は、イトーキにさらなる新しい製品をもたらしていきます。

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※所属部署・役職・制度は取材当時のものとなります。現時点の情報と異なる場合があります。

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