新素材研究

新素材研究 新素材研究

“気づき”と“出会い”から始まったサーキュラー・エコノミーへの挑戦
ーコーヒーの豆粕を家具にするー

イトーキでは、これまで世界になかった新素材の可能性を追求し、技術開発組織での研究を推進しています。
その中で、これまで消臭・脱臭効果に着目され、さまざまな活用方法が模索されてきたコーヒーの豆粕を利⽤して家具素材にアップサイクルする取り組みを実施。
今回は、研究の現状や将来の可能性などについて、プロジェクトに携わった⽊質バイオマス研究の第⼀⼈者である三重大学の野中教授、グループ会社ダルトンの浅井執⾏役員と当社2名で対談を行いました。

参加者プロフィール(2023年6月時点)
野中 寛
三重大学 大学院生物資源学研究科 資源循環学専攻 教授

博士(工学)。専門はバイオマス科学(化学工学、農芸化学、木材化学)。卒業研究以来、25年以上さまざまなバイオマス研究に従事。2005年に三重大学着任後は、木材など木質素材にフォーカスし,木質バイオマスの社会実装と脱炭素化への貢献を目指す。

浅井 直親
株式会社ダルトン 執行役員 粉体機械事業部開発・技術統括部 統括部長

1990年に入社以来、技術・開発職に従事し、粉体機械の性能向上および粉体技術向上に取り組んでいる。2017年に大阪府立大学(当時)にて学位取得。工学博士。

小島 勇
株式会社イトーキ 生産本部技術開発室

2007年、イトーキ入社。2010年から国産材活用ソリューションEconifaの立上げメンバーとして製品開発に従事。商品開発本部に異動後も無垢材製品の開発に従事し、昨年から兼任でバイオ系素材の研究を開始。

坂田 幸
株式会社イトーキ 生産本部技術開発室

機械系の大学院修士課程修了後、イトーキに入社。チェア、スツールなどの開発・設計に着手。2022年より、イトーキ内で素材に特化した部門が設立、コーヒー豆粕の家具検討を開始。

閉じる

三重大学×DALTON×ITOKIで取り組む新素材研究

木材に関連した資源活用の取り組み
―コーヒー豆粕にたどり着くまで―

小島

最近いろいろなところで、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)という言葉が聞かれるようになってきました。これに関連する言葉として、イトーキの中には、「エコニファ」という造語があります。この言葉は、「エコ」と「コニファ(針葉樹)」をかけたもので、2010年に始めたソリューションを指しており、具体的には伐採時期にきた日本の木材、スギ、ヒノキなどの木材を、オフィス家具や公共施設に活用する取り組みを意味しています。当時は、脱プラスチックや脱炭素は今ほど注目されておらず、SDGsという言葉はありませんでした。実際の取り組みも比較的小規模なものでしたが、日本の国土の約七割を占める森林をもっと有効に活用していくことに着目した点で大きな意義があったと考えています。

野中

三重大学の私の研究室は木質分子素材制御学研究室という名前です。木質とは、木だけではなく、竹、稲わらなども含んでいて、これらの素材をいかに有効活用するかをテーマとしています。木質を扱う我々の研究で特徴的なのは、木質素材の中に含まれている全成分の利用を目指す点です。中でもセルロース、ヘミセルロース、リグニンという三大成分の活用に着目し、それら成分を抽出して使う研究を続けてきました。
一方、手間をかけて成分を抽出するだけでなく、素材を粉砕してできた粉末を使って、そのままものづくりする方法についても、2016年頃に研究を開始しました。粉末を使うので全成分を利用しています。当初は木粉や紙粉を原料にしていましたが、その後、今回のコーヒー豆粕、竹粉などさまざまな素材の活用に対象が拡大しています。

同じ志を持つ二者が結びついた
―三重大学・イトーキ、協働のきっかけ―

野中

研究室でコーヒー豆粕の研究を始めたのは、コンビニエンスストアでアルバイトをしていた学生が、ドリップ時に出るコーヒー豆粕が大量に廃棄されているのに気づいたのがきっかけです。のちに知りましたが、コーヒー豆粕は、年間60万トンも排出されるそうです。研究を始めた時は豆粕の廃棄について、あまり重大視はしていませんでしたが、実は大きな社会課題だったんです。

小島

私たちが今回の研究に取り組んだのは、当時の素材研究所の所長から「いろいろな素材のリサイクルを考えたい。その手始めとして、身近な存在であるコーヒー豆粕をなんとかしたい」の一言で、商品企画との兼任で研究を始めたのがきっかけです。
研究を開始した当初は、コーヒーの豆粕も粉なので粉砕すればすぐにも家具に利用できると比較的単純に考えていましたが、実際やってみると、そもそも廃棄された豆粕を乾燥するだけでも難しいことでした。
行き詰まった私たちは、Econifaの製品開発でも協業し、木材について科学的にアドバイスをいただいていた秋田県立大学木材高度加工研究所の足立准教授に、藁にもすがる思いでお電話をさせていただきました。そこでご紹介を受けたのが、野中先生です。

乾燥、成形、さまざまな課題を解決して製品化
―コーヒー豆粕がオフィス家具になるまで―

野中

今回の研究での役割分担を説明すると、コーヒー豆粕を収集してきて、浅井さんのおられるダルトンが細かく粉砕します。その後、三重大学は、素材を調合して成形を行い、さらに、イトーキで家具を作るという流れとなっています。

浅井

ダルトンが担当する粉砕の工程で課題になったのは、乾燥の問題です。粉砕するときに素材が乾燥していない場合は、素材が装置の中に付着し、効率よく作業できないため、乾燥していることが前提条件です。実際に入手したコーヒー豆粕は、ドリップした形の5センチくらいの円錐状のままで、サイズ的にも大きすぎてなかなか乾燥せず、また素材が湿っているため、一般的な解砕機(ほぐし機)では連続運転ができないほどの付着が装置内に発生してしまいました。これをどうするかは大きな問題となりました。
そこで役に立ったのが、われわれの造粒機です。造粒機は湿っている粉を成型する仕組みで、通常では乾いている粉体に液体を加え湿らせて粒をつくります。乾いたものを濡らして大丈夫であれば、最初から濡れているコーヒー豆粕に使用することも可能だろうという逆転の発想で、コーヒー豆粕を造粒機にかけてみました。円錐状の大きなブロックを直径8ミリ程度の小さな粒に変換するようにしたところ、乾燥も粉砕もうまくいくようになりました。粉砕後の粉が野中先生のご要望どおりの粒子径となるかが少し不安でしたが、測定した結果が先生のOKをいただけたときは、ほっとした記憶があります。

野中

イトーキさんとプロジェクトを進めるなかで、ダルトンさんがイトーキグループ企業と分かったときは正直驚きました。研究室ではダルトンの混合撹拌機を使っていますし、ドラフトチャンバーや実験台もダルトン製が大量にあります。今回のプロジェクトにおいて、粉砕工程をどうするかは大きな問題であり、ダルトンさんが仲間にいたのは非常に頼もしかったです。
コーヒー豆粕の細かい粉ができると、つぎは、私の研究室が担当した、粉と粉をつなぐ接着剤のような役割を果たす材料を混ぜる混錬、プレートの形にする成形の工程です。プレート成形では、セラミックスや粘土を成形して棒や瓦のようなものを作る押出成形技術が応用できそうということで、セラミックス向けの成形機を活用しています。今回は、商業利用を想定し、比較的大きな成形機を用いた作業をイトーキさんも立ち会って、進めていきました。

COFFEE GROUNDS

実は、コーヒーの粉末さえあれば、押し出して形にすること自体は比較的容易であり、その後の乾燥したプレートが綺麗な形になるかどうかが、難しいポイントです。小さいサイズでは綺麗にできても、大きなサイズでは乾燥時に反りが生じるなど問題が発生するケースが少なくありません。その問題を解決していくのが、私たちの腕の見せ所となります。

坂田

今回のプロジェクトでは、イトーキは実際の家具製作を担当しており、最初の試作品としてスツールを作成しました。野中先生が指摘されたように、実際に作った素材が反ってしまうため、この反りを解消していくのが非常に難しかったです。板状になった素材の反りを解消する方法としてプレスでいろいろな条件を試しながら、より最適なプレス方法を探していくのは相当な困難でした。最終的にはそれを克服して、試作品ができたときは非常にうれしかったです。
野中先生、ダルトンさんのご尽力もあって完成した試作品を見る限り、コーヒー豆粕は良い素材になる可能性は大です。そのため、実際にお客さまに使っていただける製品にするというイトーキの責任は重大だと感じています。

サーキュラー・エコノミーの確立に向けて広がる未来
―オールバイオマスマテリアルの挑戦―

野中

私たちの取り組みは、環境省の研究プロジェクト※に関連した産学連携活動として実施していて、3年プロジェクトの1年目が終了したところです。このプロジェクトでのわれわれ研究室の使命は、コーヒー豆粕を用いて寸法制御と耐水性を併せ持つ素材を量産できる技術を確立することです。技術が確立すれば、実際に企業が素材を用いた製品開発が活発になり、私の目指している社会実装という目的にかなったものになると思います。現在は、その第一歩として着実な一歩を踏み出しているといえるのではないでしょうか。

  • 令和4年度環境研究総合推進費「セルロース誘導体を助剤とするバイオマス粉末押出成形・耐水化システムの確立」(研究代表者: 野中 寛)
浅井

ダルトンでは、コーヒー豆粕の利用に関連する粉砕技術の確立については求められたご要望には応えることができたと評価しています。今後は、いかに効率よく、最もエネルギーを抑制した形で安定生産を行うかという課題に取り組む予定です。コーヒー豆粕におけるサーキュラー・エコノミーの確立に向けて、安定して安く作れる方法の確立に取り組みたいと考えています。

小島

私は、イトーキのゴールを短期、中長期的とふたつの目線で考えています。短期的には、今の技術でつくれる素材を用いて、実際にお客さまが喜んで購入・利用したくなる魅力的な製品を開発するという成果を出すことが大切と考えています。
もっと長い目線で見た場合は、イトーキの素材に対する考え方やスタンスを変えることです。当社製品はまだまだ化石燃料由来の接着剤や塗料に頼っている部分があるので、長期的にはコーヒー豆粕にとどまらず脱化石燃料を目指した新しい素材、新しい製品の開発に取り組んでいければと考えています。

坂田

私は、小島の下でコーヒー豆粕から作った素材を実際の家具にするための会社間のやりとり、スツールのブロック調の配置等に関わりました。私自身はイトーキとしてのビジョンを実現するために、お客さまの近くに居てニーズを拾う、地道な取り組みにこだわっていきたいと考えています。

野中

三重大学、イトーキ、ダルトン三者がそれぞれのゴールを設定していますが、三者の立場を超えた大きな視点で言うと、今回のプロジェクトは、オールバイオマスマテリアルへの挑戦と総括できると思います。

サーキュラー・エコノミーの確立に向けて広がる未来
サーキュラー・エコノミーの確立に向けて広がる未来

世界の素材研究のトレンドは、身近な例でもプラスチックストローを紙ストローにするなど石油由来の原料を使用しないオールバイオマス材料に切り替える方向に進んでおり、これまで考えられなかった物もバイオマスマテリアルに置き換えようという動きが強まっています。方法論的には、プラスチック素材を石油由来からバイオプラスチックに、あるいは、木製品や紙製品に置き換えるというやり方、私の研究室がやってきたように木材の成分を分離しそれらを使うやり方、木粉を固めてプラスチックの代わりのものを作るやり方など、さまざまなやり方が、すべて材料を植物由来に変えていこうという基本思想に基づいています。
我々の現在の取り組みは、オールバイオマスマテリアルの挑戦ですが、その先には、サーキュラー・エコノミーの確立にもつながる道筋が見えていると考えています。

「エコプロ2022」に「Coffee Grounds board」を参考展示

今回の共同研究テーマであるコーヒーの豆粕の活用に関連し、家具等の素材に利用できるボード「Coffee Groundsboard」を製作。環境関連の展示会「エコプロ2022」において、参考展示を行いました。コーヒーの豆粕は、これまで消臭・脱臭効果に着目され、さまざまな活用方法が模索されてきましたが、今回は家具に活用するというアップサイクルへの取り組みであり、会場の注目を集めました。

CONTACT

各種お問い合わせはこちらから。