近江八幡市役所 様 市庁舎建て替えの長期プロジェクト。対話と客観的なデータで、自信を持って説得できるプランを。

プロジェクト概要

所在地:
滋賀県近江八幡市
延べ面積:
約 9,000㎡
建築概要:
地上4階
入居者人数:
約500名
使用開始:
2026年1月予定(竣工12月)

2026年使用開始を目指して進められている近江八幡市役所市庁舎整備の実施設計フェーズ。地方自治体が抱える多種多様な業務の中で、部門間の違い、雇用形態の違い、働き方の違い、働く場所の違いなどから生じるパフォーマンスの違いを、「Data Trekking」を使って読み取り、働き方をベースにした今後の空間プランのヒントに活用いただきました。

プロジェクトの経緯 市庁舎整備プロジェクト3年目の実施設計フェーズ

新庁舎は、「行政機能に特化し、コストバランスのとれたコンパクトな庁舎」などをコンセプトとして、来庁者の利便性や市民サービスの提供を最優先に整備します。
1階には戸籍や税など市民サービスの窓口、2階には子育てや教育、福祉などの窓口を配置しており、市民利用の多い低階層ほど面積が大きくなっています。

2019年から基本計画の策定を進めてきましたが、新庁舎整備をきっかけに、市職員の働き方の課題にも目を向け、オフィス改革の取組みも進めてきました。一部執務室の改善から取り組み、防犯対策、交通安全対策、環境政策、人権擁護等を主に担う市民部フロアのパイロットオフィス化に取り組んできました。

2023年に設計・施工一括発注方式で事業者を選定し、実施設計に着手してからは、職員にとって働きやすい環境、職場を作るため講演やワークショップなどを開催しています。

ワークショップの様子

パイロットオフィス

オフィス改革の流れ

  1. ① 一部オフィス改善を先行実施

    現庁舎の一部執務室において、文書量の削減、文具の一括管理、グループアドレスなど。

  2. ② パイロットオフィス

    現庁舎の市民部フロアにおいて、対象部署の若手職員が考えたレイアウトに執務室を改修。

  3. ③ ワークショップ

    新庁舎の執務室レイアウトを検討するためワークショップを開催し、各課の意見の抽出とディスカッションを実施。

  4. ④ レイアウトプラン作成

    パイロットオフィスの成果とワークショップの意見を反映し、新しい働き方を促進する新庁舎のレイアウトプランを作成。

導入動機 ヒアリングで意見を反映するごとに
無難なプランになっていってしまう悩み

市が担う業務には、市民の様々な手続きをサポートする市民サービス系の業務から、都市基盤の整備や維持管理を行う事業系の業務、防災などを担う業務など、部門ごとに業務内容が大きく異なります。

新庁舎で目指すのは職員の高効率な働き方による、より良質な行政サービスの提供です。それに対して今の働き方に課題感はもっており、他自治体や企業を参考にパイロットオフィスなどを導入し、新庁舎では思い切った執務スペースのプランで働き方を空間から変えようと考えていました。

ところが多岐にわたる部門と対話を重ね様々な意見を反映していくと、どうしても無難なプランになってしまうのです。対話は大切なプロセスですが、どうしても主観的な情報の積み重ねになってしまう。そこで、客観的なデータ分析を導入できないか思案していました。

実施内容 ワークショップ、パイロットオフィス実験を経て、
働き方サーベイと位置情報による稼働調査を実施

イトーキの「Data Trekking」は働く場所にまつわる様々な情報を掛け合わせて働き手の状態と実際の働き方を客観的に分析できる仕組みです。どのような情報を使うかはカスタマイズが可能なのですが、今回は、組織と個人のコンディションを分析する働き方サーベイ「Performance Trail(パフォーマンストレイル)」と、位置情報を使って実際の行動や働き方を解析する「Workers Trail (ワーカーズトレイル) 」を導入しました。 それらを重ね合わせた結果から、働き方の現状把握や、部門ごとの特徴、フロアごとの特徴を可視化してもらいました。

分析の結果、全体的にパフォーマンススコアが高く、特に「コミュニケーション」に強みがありました。一方「ストレス」や「ロコモ(肩こりや眼精疲労など筋骨格や感覚器の状態)」に課題があり、ワークスタイルに起因する要素では、職員の休憩の取りやすさやオフィスの快適性に原因がありそうだ、ということが分かりました。また強みであるコミュニケーションの中でも、職員同士の雑談は活発ではない、という結果も出ていました。

また、部門ごとの比較をしてみると、窓口対応などの業務が多い部署はスコアが低く出ており、休憩しづらいなど日常業務においての負荷が高いことが改めて確認できました。

導入効果 位置情報で示される客観的データから目指すべき方向を再確認

まずは「Workers Trail」によりスペースとしてそもそもよく使われているエリア、同じ人が滞在しているエリアなどの情報が可視化され、設備管理上の課題の再確認ができました。

さらに「Performance Trail」の結果を掛け合わせることで、エリアによってパフォーマンスやエンゲージメントに差があることが一目瞭然でした。

1. ワークエンゲイジメントスコアの高い人/低い人が利用するエリア

2. ストレススコアの高い人/低い人が利用するエリア

3. ソーシャルコンディションスコアの高い人/低い人が利用するエリア

4. よく利用する人の属性

一方で、どのフロアでもオープンな執務スペースの中央ではレイアウトの影響でコミュニケーションが活性化しているのに対し、閉鎖的なレイアウトの執務室ではそうではないことも発見できました。庁舎内のパイロットオフィスについての分析では、快適性を感じられているスペース、コミュニケーションによい効果をもたらしているスペースの特徴も分かりました。これらは「職場での雑談」に課題がある中では参考になるポイントでした。

事実に基づいた分析観点を示す表

ワークショップやヒアリングなど、できるだけ対話を中心に計画を進めていくことを大切にしてきましたが、一方で各課の意見を入れ込みすぎて目指すべきゴールから遠ざかっている部分がありました。今回の分析データから、改めて客観的なデータで一歩引いたところから冷静に見ることができ、実施設計のレイアウトに反映することができました。

今後への期待 完成後に、その成果をデータで示し検証につなげたい

執務スペースについては、今後も「なんとなく不満はあるけど、うまく言葉にできないし、どうすれば良いかはわからない」ということが出てくると思います。そういったことに対して「不満の要因を可視化」し、「改善アイデアの素」や「改善の根拠」になってくれることを期待します。そして「改善前後の定量的な効果測定」にも期待します。

そのためにも庁舎完成後に実際に使ってみて、働き方やコンディション、さらに市民サービスへの効果を確認できたらと思います。また、時代とともに行政への要望や役割、それに伴い働き方も変わっていくものと思いますので、客観的データをもとに業務を日々改善できるよう、継続的に「Data Trekking」を活用できればと考えています。