03.エフチェア

第一線を闘い抜くために、
“普通”を極めたオフィスチェア

現在、イトーキで販売している執務用のオフィスチェアは20シリーズ以上。その中でエフチェアはトップクラスの出荷数を誇る。美しいデザインとフィットする座り心地は、イトーキ社内にも男女問わずファンが多い。広く愛されるチェアはどのようにして生まれたのか、プロジェクトリーダーを務めた伊藤博之に話を聞いた。

エフチェア

設計思想である“Fit&Free”とは「振り向き、電話をし、引出しを開閉し、上部の棚からファイルを取り出す」一連の動作がスムーズに行えるよう、座る人の上半身をfreeにすること。体重のかかる背中と腰はしっかりと支えながら、肩から腕を解放するフォルムと機能で、自由な動きと快適な座り心地を実現します。

エフチェア

開発担当者

伊藤 博之
OF商品第1企画室
室長

イトーキOF商品第1企画室 室長 伊藤 博之

失敗の許されない開発テーマ

エフチェアのプロジェクトは、2010年の後半から動き出しました。オフィスチェアの中でボリュームゾーンになっている、肘無しローバックタイプで5~6 万円台のチェア。そのクラスを牽引してきた「プラオチェア」が、発売後8年を経過していたため、新たな主力チェアが必要だという声が大きくなっていました。新しいオフィスチェアを作るということは、会社にとっては大きな投資です。製品化するために多くの人と時間、費用を必要とし、必ず成功させることが求められます。「プラオチェア」の売り上げを維持するだけでなく、さらに伸ばしていかなければいけないという、このプロジェクトに関わるメンバーにとって重要なミッションでした。プレッシャーは大きかったです。

あらゆる障壁を越えた先にある、本来の姿

5~6万円のチェアを求めるお客様というのは、座り心地や機能性、デザイン、そして値ごろ感と、バランスの良さを求められます。すると、普遍的というか他社の製品と同じような特長になりやすいんですよね。そんな中で負けずに闘っていけるチェアをつくるために、プロジェクトを通してのコンセプトを決めました。それは「普通を極める」ということ。「普通」というのは、製品として「あるべき姿」が具現化された状態のことです。「普通こうあるべきだと思うけど、技術的に難しいから無理だね」と妥協を重ねた末に出来上がった製品は、やはりどこか不自然というか、矛盾を含む仕上がりなんですよね。一切の妥協を排除してあらゆる障壁を乗り越えた先にあるものが、普通を極めた製品だと思うのです。このコンセプトが、プロジェクトを通してのチームでの共通認識となりました。そして、普通を極めるチェアをつくるために二つの方針を掲げました。「イトーキ製品の遺伝子の継承」と、「ユニットの一からの設計」です。

エフチェアの開発について語るイトーキOF商品第1企画室 室長の伊藤 博之
エフチェア製品写真

遺伝子を受け継ぎ、さらに前へ

まず一つ目の方針「イトーキ製品の遺伝子の継承」ですが、イトーキ製品の中でも評価の高いチェアの考え方を、反映させていきました。例えば、イトーキのチェアはクッション性やフィット感を大事にしており、「プレーゴチェア」で実現した包み込まれるような座り心地は高く評価いただいています。それを今回のチェアにも反映させたいと考え、腰を左右から支える特長的な形状を取り入れました。

さらに、イトーキのオフィスチェアの中でも特に大きな売上を記録した「バーテブラチェア」の特長も受け継いでいます。「バーテブラチェア」は、パソコンがオフィスに浸透し始めたころのオフィスチェアです。当時はオフィス全体でパソコンが数台しかなく、パソコンを使う席が決まっていました。ですから、パソコン席では少し前傾しやすい背もたれが立っているもの、普段の執務ではしっかり腰掛けて疲れにくい背もたれが寝ているものと2 種類をラインナップしていました。今のオフィスでは、パソコンが一人に一台あるのが当たり前です。それでもいつもパソコンを使っているわけではないですよね。業務内容によって前傾姿勢になったり、深く腰掛けたりすることがあります。つまり、これらの2種類の執務姿勢をひとつのチェアで実現させるところにニーズがあるのではないかと考えました。

エフチェア製品写真

座り心地とデザインの融合、エレガントへの挑戦

そういったことをデザイナーに伝え図面を起こしてもらいました。リクエスト通りに腰を包み込む背も たれの腰部が左右に大きくせり出したデザインでした。腰部が左右に大きくせり出すことで背もたれが大きくなってしまう懸念があったのですが、背もたれが上部に向かって細くなっていく今まで見たことのない形状のデザインを作ってくれました。

「イトーキ製品の遺伝子の継承」「ユニットの一からの設計」は主に座り心地、使い勝手についての考えだったので、デザインについては、今までのイトーキのチェアとは違うエレガントさを感じるチェアができないかとプロジェクトメンバーで話し合っていました。プラスチックの技術が発達し、シャープな表現ができるようになってきていたこともあり、新しいシャープでエレガントなチェアを作ろうと。出てきたこのデザインは、これまでの角張ったどこか男性的なチェアや厚ぼったくて重そうなチェアとは明らかに違いエレガントさを感じるものでした。さらに、形状試作を作ってみたところ、この形は肩まわりがとても自由に動く、機能的にも優れていることがわかりました。エフチェアの代名詞「フィット&フリー」の根幹を成す、腰部を包み込み肩まわりを自由にする形状は、この時おおかたのイメージが出来上がっていました。

エフチェア製品写真
エフチェアの開発について語るイトーキOF商品第1企画室 室長の伊藤 博之

“普通”を極めるために

ふたつめの方針は、「ユニットの一からの設計」です。座り心地、使い勝手の良い、それでいてエレガントなチェアを実現するために、座る部分や動く部分の最適な材料、形状を追求し、オリジナルのユニットをつくりました。背もたれには固すぎず心地よく身体を支えるエラストマー樹脂を採用したり、シンプルでわかりやすい操作にこだわったりと、ほとんどの部品が新作なので開発には時間がかかりました。もちろん見た目にも妥協はしませんでした。背面のエラストマー樹脂の縦に流れるラインや、肘や脚部の細くスマートな形状から、「エレガント」を感じていただけるのではないでしょうか。また、それまでは強度の問題などで不可能だった、限りなく白い脚部にも挑戦しました。薄くて強い部品を真っ白い樹脂でつくるのは、実は非常に難しいのです。エフチェアは、白く透過性のあるエラストマー樹脂の背面をメインカラーにしているので、その背と組み合わせる脚部は、「普通」に考えて真っ白が好ましい。ここは絶対に譲れませんでした。新しい材料を取り入れ試行錯誤を繰り返し、イトーキの執務チェアで初めて白い脚部を実現しました。

エフチェア
エフチェア

試験から品質チェックまで、妥協の許されない工程

ユニットを一からつくっているので、試験ではトライアンドエラーの繰り返しです。試作を作り、デザイン、強度、安全性などの多くの確認を行います。細くシャープなラインにしたい、でも強度を高めたいという相反する要素の中で、新しい材料にチャレンジしながら、ベストな答えを探っていきました。このトライアンドエラーの繰り返しがとても重要だと考えています。ここで試した多くのことは、今回のチェアだけでなく、今後のチェアの開発にも活きてくるのです。

トライアンドエラーを繰り返し、やっと試験を通っても、全く気が抜けないんですよね。量産の部品が出来上がってきてからは、想定したとおりの動きが出来ているか?強度が確保されているかどうか?といった検証が始まります。多くの部門の方々に協力してもらい、徹底的に品質チェックを行います。ねらい通りの商品をつくるために、妥協は許されません。

時代にあったチェアをつくり続けること

エフチェアは、どんな体型の人でも長時間座って仕事ができるものに仕上がっています。チェアを買うとき、多くの人は5~10 秒ほど座って硬さや座り心地を評価します。しかしオフィスチェアは、8 時間座ってどうなのか?ということを念頭に置かなければならない。だからエフチェアは、ぱっと座りでも座り心地が良く、長時間座っても疲れないチェアを目指してつくりました。

チェアは時代によって変化します。例えば30 年前は、デスクワークといえば基本は手で書くこと。チェアの機能としては書く姿勢を支えることが求められました。今は、皆がパソコンを使っています。そして高齢化が進んでいる。30 年前とは使い手の条件が全く違いますよね。私は、時代に合ったチェアをつくることで、快適にデスクワークをしてもらいたい。「時代にあったチェアをつくり続けること」これが私の大きな目標です。

エフチェアの開発について語るイトーキOF商品第1企画室 室長の伊藤 博之

> エフチェア 製品ページ

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