60~100名規模のワークショップを複数チームで同時に行える協創空間。イトーキは全面ホワイトボードで可動式の間仕切り壁を新たに製作するなど、協創ワークショップのためのさまざまなファシリティを提供
2019年4月、東京都国分寺市の中央研究所内に開設された「協創の森」。それは、SDGsやSociety 5.0※の実現に向けて、「協創アプローチ」などを用いた世界中の顧客やパートナーとのオープンな交流やディスカッションにより、新たなイノベーションの発信を目指す株式会社日立製作所(以下、日立製作所)の研究開発拠点です。イトーキは、その中核で ある「協創棟」のオフィス設計を担当。日立製作所をはじめ複数の企業とのパートナーシップのもと、多数のステークホルダーとのオープンな協創を可能とする空間を実現し、社会課題の解決のためのイノベーションの創出を支えています。
地上4階建て、延べ床面積約16,000m²。東棟・西棟・コミュニケーションコリドー・馬場記念ホールからなる。第32回日経ニューオフィス賞のクリエイティブ・オフィス賞を受賞。
「協創棟」は、株式会社日立製作所の研究者・デザイナーが、世界中から招いたお客様やパートナーとのオープンな協創を通して新たなアイデアを生み出す重要拠点です。イトーキは、この協創棟のオフィス設計(建築・インテリアデザイン・照明・家具・ICT)を担いました。
どのフロアも、仕切りのないオープンな空間で、利用者が目的や好みに合わせて働く場所を選べるよう設計しています。また、長い時間を過ごす生活の場でもあることから、キッチンやリビングのように利用者がリラックスできる空間を設置。さらには、周りの自然を屋内に取り込み、靴を脱いで使用する芝生エリアを設けるなど、偶発的な交流や会話を生み出す仕掛けも用意しています。
コミュニケーションコリドーには、あえて「沓(くつ)脱ぎ」をさせることで意識の転換を促し、親密な対話やよりリラックスした休息を誘発する場を提案。
オフィス内で使用しているキャビネットの天板の一部には、国産の間伐材を利用した内装材を採用。
広くさまざまな知を集めてアイデアを生み出すため、4つのコンセプトを設定。それぞれの項目が実現する場、ICT設備、空間、ファシリティを設計しました。
オープンな協創によるイノベーション創生のサイクルを迅速に回すための場を新たに整備。社内外のさまざまな知見や経験を融合して、アイデアの抽出と検証を繰り返し、実証ま でたどり着くことを目指す。
社内外のあらゆる人たちとのコミュニケーションを通して、課題の共有やビジョンの醸成を図り、速やかに目指すべき研究テーマを設定・実行できるよう、国際学会からミートアップレベルに至るまでの開かれた議論の場を用意する。
研究開発グループの持つ技術基盤を使って、思いついたら即実行できるプロトタイピングのためのファシリティを、デジタル/フィジカル両面で整備。目標達成に向けて連携を深めながら多様な試作・検証を実践できる場を用意する。
周囲の自然環境を取り込んだ開放的な空間構成により、自由闊達な場の雰囲気を醸成。ONとOFF、集中と発散といった、相反する要素も包含し、個々人の裁量で自由かつ多目的に使うことができる場を随所に用意する。
営業本部 FMデザイン統括部
首都圏第一プロジェクトデザイン設計室
西岡 利恵
「協創の森」は、約3年かけて日立製作所様と専門分野のデザイナーの“協創”から生まれたワークスペースです。多くの社外の方をお迎えし、ここで働く人が自分の好きな居場所をつくれるようにという願いを込めました。
「恵まれた自然の中で、人と交わり、食を楽しみ、暮らすように働く」をテーマに、機能的な快適性だけでなく、人の感覚や感性に心地よさを感じさせる人中心の空間デザインになっています。
設備機器事業本部 設備機器営業部
開発営業室 室長
青木 良一
多様な人々が集まり、アイデアを創発する空間には何が必要か。構想段階からお客様ととことん話し合い、協創によるオープンイノベーションを支える視点で空間デザイン設計に携わりました。
メーカーの特長を発揮すべく、カタログ製品パーツを活用した什器の開発も行いました。その工程で、各工場の設計部門など多くの社員と顧客満足に挑むやりがいを共有し、新たな経験価値の創出にもつながったと思います。
コリドーの中央には吹き抜け階段を設け、平面的にも立体的にも空間をつなげることで、専門の異なる研究者間の出会いを生み、新たな発見や気づきを誘発する。
(左)株式会社イトーキ
管理本部 CSR推進部 部長
原 孝章
(右)株式会社日立製作所
研究開発グループ 東京社会イノベーション協創センタ センタ長
北川 央樹 氏
(所属・役職は取材当時のものです)
北川当社の技術開発の中核である、「中央研究所」は1942年の設立以来、エネルギーや半導体などの事業創出を通じて、“技術の日立”を体現してきました。しかし、2000年代に入ると、「どうすれば売れるのか」「お客様は何を求めているのか」が不明確になってきたんです。
原企業が開発・生産した製品を販売促進の強化によって消費者へ売り込む技術先行型のスタイル、いわゆる「プロダクト・アウト」の限界がきたということでしょうか。
北川おっしゃる通りです。高性能の製品を開発すればいいのではなく、お客様に寄り添い、「課題」から製品やサービスを考える時代になった。この「課題」とは、地球温暖化や資源の枯渇といったさまざまな社会課題も含まれます。脱炭素社会の実現や少子高齢化問題など、解決すべき課題が複雑さを増す中、「1対1」の協創では、社会問題を解決できなくなっているのです。
原社会の多様化が進んで、企業や社会が直面する課題は複雑化していますね。現代の社会課題を解決するためには、お客様以外のステークホルダーを巻き込む必要がある、と。
北川そうです。複雑な社会課題の解決につながるイノベーションを生み出すには、スタートアップ企業や大学、地域住民といった人々が持つ知見を掛け合わせることが不可欠です。そこで、よりオープンで多角的な協創のカタチを実践するための拠点として「協創の森」を開設しました。その中枢となるのがイトーキ様に設計していただいた「協創棟」です。たくさんの方がいらっしゃっても、フレキシブルに対応できる設えと工夫が施されているので、オープンイノベーションに最適の空間だと感じています。
原ありがとうございます。協創棟の3~4階の執務スペースでは、仕事に、休息に、コミュニケーションにと、用途に合わせて自ら選べるさまざまなスペースを提案させていただきましたが、社員の皆様のワークスタイルに変化はありましたか。
北川これまでは部や課の単位で仕事をしていましたが、研究セクションによってはフリーアドレスを採用し、積極的にプロジェクト単位で業務を行えるようになりました。非定型のインテリアやレイアウトのおかげで、プロジェクトの人数や内容、その日の気分で働く場所を使い分けることができ、快適に仕事をすることができています。
北川イトーキ様とは、さまざまな協創の可能性があると考えています。イトーキ様がこれまで築き上げてこられたのは、人間が快適に行動したり、働いたりすることをプロダクトで支えてきた歴史です。この知見は、オフィス以外でも活用できるのではないでしょうか。例えば、ショッピングモールの設計や街づくり事業。人々の動きを快適にするソリューションを一緒に提供することで、人々の幸せを高めていくことができると思っています。
原近年、スマートフォンやタブレットがビジネスの主流となりつつあり、オフィスの机で仕事をする必然性がなくなっています。テレワークをはじめ、いつでもどこでも仕事ができるようになったことによって、街そのものがオフィスの役割を担うようになってきました。『明日の「働く」を、デザインする。』をミッションに掲げる当社にとって、『明日の「働く」』を常に考え、追求していくことが、変化の多い時代を生き抜くために不可欠な要素です。デジタルの先進企業である日立製作所様と共に、未来を見据えて、新たな分野に挑戦していきたいですね。
北川一緒に造ったオフィスで、一緒に協創できる──このような素晴らしい機会は滅多にありません。「オープンで多角的な協創」で、社会課題を解決できるイノベーションを起こせたらうれしいですね。