坪田 秀子前日本ロレアル株式会社取締役副社長
サロン Bouquet de vie 主宰

坪田さん、長時間労働はどうすれば変えられますか?

「働き方改革」が叫ばれていますが、いったい、人生において「働く」とはどういう意味を持つのでしょうか。これからの働き方の変化と必要とされる能力について、フランスと日本の両国で働いた経験を持つ、前日本ロレアル株式会社副社長の坪田秀子さんに聞きました。

取材・文 安楽由紀子  写真・高井正彦

話を聞いた人

株式会社イトーキ 商品開発本部
先端研究統括部 先端技術研究所

小笠原 豊

他人の生き方にならおうとは思わなかった

-- この3月まで、お茶の水女子大学で教鞭をとっておられた坪田さんですが、その前は日本ロレアルで副社長をされていたとか。ビジネスから教育、と大きく舵を切られましたが、何か目的があったのですか。

いえいえ。大学ではキャリアデザインを教えていたのですが、自分自身はキャリアプランゼロの人間なんです(笑)。

そもそも、はじめて組織に入ったのは39歳のとき。大学を出て「これからの時代、自由に生きるには語学が必要」とフランスに留学していたからです。パリのデザイン会社、日本の会社を経て、再度日本の大学院で学び、のちに入社したのが日本ロレアルでした。

-- 学びとビジネスの場を行ったり来たりですね。

ただ、最初の留学以外はすべて「人に導かれるまま」なんです。パリのデザイン会社も知人の紹介でしたし、日本の大学院も友人のススメでした。与えられたチャンスに一生懸命取り組むと次の展開が生まれ......の繰り返しでした。

でも、これまでのキャリアで無駄なことはなにひとつなかったですね。パリのデザイン会社ではコミュニケーションを担当していましたが、それが日本ロレアルで生かされてコーポレート・コミュニケーション部長になりました。のちに「その経験を大学広報に生かして欲しい」ということで、お茶の水女子大学の学長特命補佐に就任しました。任期を終えたあとは、非常勤講師を務めていました。

-- 坪田さんがフランスで就職された1980年代、日本ではまだ新卒一括採用や終身雇用制度が根強く残っていました。そんななかで自分らしい生き方を貫けたのはなぜでしょうか。

4人姉妹の3番目で、誰からもかまわれずに育ったので(笑)、インディペンデントな性格になったのかもしれません。いつも「人とは違うことをしたい」と思っていて、それが「人と同じ」ことを嫌うフランス人の気質と合っていたのかもしれません。ちなみに、フランスでは、「誰それに似ている」というと、その「誰それ」がどんなに素晴らしい俳優であっても、不快な顔をされました。「同じ」や「似ている」ということを嫌う人たちなんです。

ワークとライフは対極にあるものではない

-- フランスと日本、両国で働いたご経験から、日本人の働き方をどう思われていますか。

"karoshi(過労死)"が英語の辞書に載っているような状況は、とても恥ずかしいことですよね。何よりもまず、長時間労働を是正しなければならない。フランスでは"休まざる者、働くべからず"と言いますが、休むことは義務であり、休めない人は仕事に時間がかかる人=能力がない人、とみなされます。

OECDが2016年に発表した就業者1人当たりの労働生産性を見ると、たくさん働いている日本は加盟国35カ国中21位。一方、バカンス大国のフランスは8位です。長時間労働をしている日本人の方が生産性は低い。

-- 働き方にメリハリがない?

休み方を知らないのかもしれません。休暇を取ることも「技術」のひとつ。急に休めと言われても体も心もついていかないのは当然です。フランス人は長いバカンスを取りますが、最初の1週間は頭も体もガチガチだと言います。2週目になってリラックスしはじめ、3週目にやっと心身ともにリフレッシュできるのだとか。「休み」というと非生産的に思う人も多いですが、余暇こそ、人に会ったり旅や読書などで自分を豊かにできる時間です。

-- そうですね。

フランスの社会学者の友人に「日本企業がワークライフバランスに取り組んでいる」と言ったら、「フランスにはそんな言葉はない」と言われました。日本ではワークとライフが対極にあり、両者はバランスを取るべきものと考えられていますが、フランスではライフの中にワークや趣味、ファミリー、友人がいるという考え。それを聞いて、最近はワークライフバランスという言葉を使わないようにしています。

生産性を上げるためには「ファシリテーションスキル」が必要

-- 長時間労働から脱却するために必要なスキルはなんでしょう。

個人の努力も必要ですが、これからはチームで生産性、創造性を上げることが益々重視されると思います。大きなプロジェクトになればなるほど、さまざまな専門性を持った人が集まるチームになる。そんな時に必要なのは、「協働」を促すファシリテーションスキルです。チームメンバーそれぞれの思い、アイデア、能力を引き出して、最短で最大限の成果をあげる手法です。その手法を持つ人をファシリテーターと呼びます。

大学では、ファシリテーションスキルを「誰もが持つべき社会的スキル」として教えていました。サークルの運営でも家族でも、人あるところにファシリテーションありです。

-- なるほど。これから、働き方はどう変わると思いますか。

今は「VUCA」の時代と言われています。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性) 、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなげた言葉です。労働環境の変化、技術革新がめまぐるしいなか、思ってもみないことが起きたり、崩れたりするでしょう。働き方の未来を予測することは不可能に近い気がします。ひとつ確かなのは、同世代が隊列を組んで、前の人について人生を歩む時代は終わり、生き方、働き方が益々多様化する。「VUCA」の時代、多様な選択肢を持ち、自分で選びとれる人になるには、想定外のことに適応する柔軟性、そして何事にも好奇心を持てるオープンマインド、さらにリスクをとって失敗から学ぶ姿勢が必要です。この3つとネットワークがあれば、絶え間ない変化に適応していくことができると思います。

-- 今後、どのような活動をされる予定ですか?

今春、働く女性のためのサロンをオープンしました。私自身もそうでしたが、昇進、転職などのキャリアパス、職場の人間関係についてモヤモヤを抱えながら仕事をしている女性って結構多いんですよね。そういう女性たちが悩みを共有し、ポジティブな一歩を踏み出す学び合いの場を提供できたらと考えました。

サロンの名前は"Bouquet de vie"。色とりどりの人生を生きる女性が集まってできる花束と、かぐわしい香りをイメージしています。

坪田さんにとって「働く」とは?

偶然をいかして自分のものにできると、次の偶然が引き寄せられる。よき偶然は人によってもたらされるから、ネットワークは常に大切に。

坪田 秀子(つぼた ひでこ)
早稲田大学仏文学科卒。仏語教師、通訳を経て1980年からフランスに滞在。 仏大手デザイン会社カレ・ノアールで日本担当ディレクターとして企業のイメージ戦略に従事。 1990年帰国。コミュニケーション科学研究所、東京大学大学院修士課程を経て、1996年日本ロレアル創立とともに、コーポレート・コミュニケーション部長として入社。 2005年日本女性初の取締役副社長に就任。 企業広報、危機管理コミュニケーション、CSRなどを統括する。2009年お茶の水女子大学学長特命補佐に就任。「お茶大グッズ」を学生有志とプロモートするなど大学のブランディングに携わる。2016年より同大学非常勤講師を務める。

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