08.スピーナチェア

「今までにない製品を日本から」。
世界を驚かすオフィスチェアへの挑戦。

世界に通用するフラッグシップチェアとして開発がスタートした、2007年発売のスピーナチェア。「チェアが身体に合わせる」という心遣いから、かつてない快適性を備えた機構が生まれました。

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SR…ショールームスタッフ

櫻井…プロダクトデザイン室 室長  櫻井 多弥男

…品質保証部 部長  管 智士

SR:企画を担当された櫻井さん、設計を担当された管さんにお話を伺います。
まず初めに、スピーナチェアを開発するに至ったきっかけや背景を教えて下さい。

櫻井  多弥男

プロダクトデザイン室 室長。スピーナチェアの企画を担当した。

プロダクトデザイン室 室長 櫻井多弥男

管  智士

品質保証部 部長。設計部門在籍時、スピーナの設計を担当した。

品質保証部 部長 管智士

櫻井:2003年、首都圏では大型オフィスビルが相次いで竣工しました。その時期のコンペで、海外オフィス家具メーカーの事務チェアと競合になるケースがあり、海外製品に対抗できるチェアの開発を視野に入れるようになりました。一方、社内でも、海外進出するために、ドイツのオルガテック(オフィス業界をリードする国際オフィス家具見本市)に事務チェアを出展する要望がありました。また、販売提携していたアメリカのハーマンミラー社のアーロンチェア取扱停止や、同業他社からフラッグシップチェアとなる製品が発売されるという出来事がありました。そこで、世界に通用するフラッグシップチェアの製品開発に着手することになりました。

スピーナチェアの仕様は、上司との会話から生まれました。 あるお客様にチェアの座り心地が悪いと言われ、訪問した時のことです。 そのオフィスで業務をされている方々は、前のめりで猫背になっていたり、浅掛けしていたりと、正しい姿勢ではない方が多く、そのことが「座り心地が悪い」という評価につながっていることがわかりました。 その様子をみた上司の「チェアが合わせましょう!」という発言から「チェアが体に合わせるチェアを作る」という発想が生まれました。 それがスピーナチェアの最大の特長である、座が沈みこみながら後方へスライドする『パッシブ・スライド・シート機構』と背もたれランバー部が前方にせり出す『アクティブ・ランバー・サポート機構』の開発に繋がったのです。

SR:製品開発のきっかけは、ふとしたところから生まれるものなのですね。ショールームでは、スピーナチェアの機構を説明する度にお客様から感心されます。
スピーナチェアを開発する過程で特にこだわったこと、苦労したことはありますか?

櫻井:こだわったのは、素材です。 その当時、斬新なデザイン性と機能、通気性に優れたメッシュチェアが相次いで発売されていましたが、とにかく「今までにない製品」を「日本から発信したい」という気持ちで、新しさ・独自性を出すために、メッシュ以外の素材で挑戦することに決めました。 スピーナチェアの背は大きく動くので、その動きに追従する素材でないといけない。更に、メッシュチェアが評価されていた透過性を表現したいと思い、透過性があり柔らかい素材ということで「エラストマー」を検討しました。当時、エラストマーを使用しているチェアはありましたが、メッシュのカバー付が標準仕様など、エラストマーだけで完成しているチェアは殆どありませんでした。そこで、我々はメッシュなどをかぶせず、エラストマーだけで勝負する方法を検討し、最終的にリブ形状に行き着き、現在のデザインを完成させました。

苦労したのは、最後までデザイン リサーチの評価が上がらなかったことです。具体的には、「エラストマーのべたつきで埃がつきそう、リブ形状やカラーにより硬そう」という意見があり、評価が上がりませんでした。今でも好き嫌いが分かれるデザインですが、見慣れないデザインというのも手伝ったと思います。しかし、珍しく最初のデザイン画を見た瞬間からPJメンバーがこのデザインで作りたいという想いが一致し、変更しませんでした。その代りにQ&Aを作るなど、ネガティブな意見への対応策をとりました。

SR:管さんは、そのような素材やデザインを実際の製品として設計するにあたり、こだわったことや苦労したことはありますか?

管:一つ目はデザインです。恐らく世界一複雑なこのチェアをいかにシンプルに見せられるかが勝負と考え、設計しました。座面を4本の支柱で持ち上げあたかも座面が浮いたかのように見せると共に、その支柱とランバーを動かす機構が見えないようにしつつ、背もたれのロッキングメカとランバーを動かすメカが一体となり繋がったような造形になるように考えました。

二つ目はチェアの動きです。座った時に座面が沈み込む機構は世界にこのイスしかありません。スピーナチェアにとってその動きは非常に重要なのでこだわって作りました。最初は座ると座面がズドンと落ち、座り心地が悪い状態が続きましたが、検討を重ねた結果、ダンパー(トイレの蓋や棚の扉がゆっくり動くように考えられた部品)を採用し、解決することが出来ました。

苦労したのは、初めて採用する機構や材料で、これまでのチェアよりはるかに部品点数も多く、加えてスケジュールが短く開発自体が非常にハードだったことです。また、設計の現場では3次元CADの活用が本格的に始まった時期と重なり、製品作り自体も試行錯誤の連続でした。

SR:世界にひとつしかない機構・デザイン、そして新しさを感じさせる素材は、PJメンバーの強い想い・試作の繰り返しが生み出したのですね。今後、櫻井さんはどのような製品を開発していきたいとお考えですか?

櫻井:全ての働く人が快適な環境になるための製品を作りたいです。そして、その製品を長く使っていただき、愛着を感じてもらえるようになればと思います。

SR:働く環境は、創造性や効率性を考える上で、重要だと思います。管さんは今後どのような製品がうまれることを期待しますか?

管:正直言うとスピーナチェアを開発している間は、お客様に受け入れて頂けるかずっと不安でした。でもそのような製品を発売出来るのがイトーキだと思います。イトーキのDNAなんだと思います。今後も他社には無いもの、世の中に無いものを提供する姿勢をもち続けて欲しいと思います。

SR:挑戦する気持ち、とても大切ですよね。働く上でのモチベーションにも繋がると思います。最後に、櫻井さん、管さんにとって「スピーナチェア」とは?

櫻井:セールス的に成功しているとは決して言えないですし、イトーキにとってスピーナチェアの方向が本当に正しかったのかなと考えることもありますが、開発時のメンバーの一体感や情熱、達成感を感じさせてくれた製品です。今でも自分の財産となっています。

管:「かけがえのない製品」です。実は、スピーナチェアの開発のサブテーマは「このチェアで世界の人達を驚かそう」でした。おかげさまで海外からの引き合いがあったり、「グッドデザイン賞金賞」も受賞できました。この製品とイトーキに感謝しています。

SR:一体感や情熱・大きな達成感を感じられることは、自信にもつながると思います。今後も、櫻井さんや管さん、開発メンバーの想いのこもった製品がうまれることを期待しています。

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