02.ジュニアデスク

オフィスから家庭へ。
新たな市場を切り拓いた学習デスク。

1962年に発売したイトーキジュニアデスク。
子どもの成長や使い方に合わせて変化していく、日本で初めて販売されたスチール製学習デスクです。


SR…ショールームスタッフ

新田見…パーソナル開発課課長  新田見 篤

SR:ジュニアデスク販売の最前線で活躍されている新田見 篤さんに、お話を伺います。

新田見(にたみ)  篤

パーソナル開発課 課長。入社以来、学習デスクをはじめ、パーソナル環境家具の研究開発に携わる。

パーソナル開発課課長 新田見篤

まずはじめに、イトーキジュニアデスクを開発するに至ったきっかけや、当時の時代背景を教えてください。

新田見:「第2次ベビーブーム」「進学ブーム」「子ども部屋の普及」などの時代の流れにも後押しされ、70年代に爆発的に学習デスク市場を拡大しました。
このイトーキジュニアデスク、市場の動きを緻密に予測し開発したものと思いきや、実は意外な理由により開発されたものらしいのです。
当時、設備の合理化・効率化を進めた結果、強化されたオフィスデスクの生産力が販売力を上回ってしまいました。そこで、スチールデスクの新たな市場として一般家庭に着目し、学習デスクが開発されたのです。当時は子ども専用の机というものはなかったので、子どもの持ち物を調べて、机の横にランドセルをかけるフックを取り付けたり、広いスペースのある足もとにも棚を作るなど、子どもが使いやすいよう工夫をしました。色も家庭に合うように、オフィス向けで一般的だったクールグレーから、温かみのあるウオームグレーに変更して製品化しました。
イトーキジュニアデスクが時代をリードするカタチで、業界では次々とスチールデスクによる家庭進出が続き、現在に至るのです。

SR:オフィスで使用しているスチールデスクの市場として、一般家庭の可能性に気づいたんですね。
学習デスク市場の先駆者となったイトーキですが、競合先が続々と出てきたのではないでしょうか。イトーキらしさや他社との差別化できる点などはありましたか?

新田見:そうですね。今はもう撤退した企業も含めると、当時は多くの企業が参入してきました。多くの競合他社との違いは、イトーキは常に『ユーザーのためのモノ作り』を心掛けていることだと思います。
競合他社の動きよりもユーザー目線での評価を重視することで、独自のセールスポイントを作り上げてきました。イトーキが発表後に一般化したセールスポイントも数多くあるのです。
例えば、スライドアクションチェアがその中の1つです。それまで学習デスクと一緒に購入するチェアと言えば安価なセットチェアしか無かったのですが、1996年に『子どもの成長に合わせて座面の奥行が調整できるチェア』を発売したところ、通常のチェアの倍以上の販売価格だったにも関わらず、大ヒットしたのです。 現在では、座面の奥行調整は学習チェアの基本機能になっています。

SR:イトーキから始まったものが、ジュニアデスク市場のベースになっていったのですね。
現在も新しい製品が続々と開発されているジュニアデスクですが、製品開発の過程で特にこだわっている点や、苦労したことなどありましたら教えてください。

新田見:プロダクトの開発は「自分だったらどのようなプロダクトが欲しいか」をひとつのアイデアの源泉にするものだと思うのですが、学習デスクは大人が使うものではないので、なかなか使用者の気持ちになって開発することが難しいのです。
なるべく使用者の生の意見を聞く為に、アンケート、インタビュー、家庭訪問、店頭での販売応援を行いながらの聞き取りなど、いろいろな調査を実施しています。実際に使用者の声を聞くことで、開発のヒントを得たり、改善点に気付かされたりします。
ここ5年継続しているのが、小学5年生の児童に20時間かけて、『本当に欲しい学習デスク』を考えてもらうプロジェクトです。実際に学習デスクを使用している子どもたちからの貴重な意見には、毎年驚かされます。最近では一人に一台渡されているタブレットにアイデアを記録して、最終発表会では児童自身がパワーポイントで作った提案資料でプレゼンしてくれるんですよ!

SR:小学生がプレゼンですか!大人のモチベーションも上がりそうですね。
子どもたちの意見から実際に製品化されたものも、あるのでしょうか。また、子どもたちから出たアイデアで「こんなこと大人じゃ絶対に思いつかない」と感じたものはありますか。

新田見:子どもたちのアイデアがヒントになって、『着せ替えデスク』『お片付けトレー』などが生まれています。
製品化には至っていませんが、『冬に学習デスクでは寒いので、コタツを付けた学習デスク』『消しゴムのカスが捨てやすくなったデスク』『折りたたんで小さくなるデスク』など、毎年さまざまな意見が集まります。
以前『妹や弟が頭をぶつけても痛くない、柔らかいデスク』というアイデアを考えてくれたお子様がいらっしゃいました。幼い兄弟を思いやる心遣いを感じ、日本の将来も捨てたものじゃないなと思いましたよ!

SR:大人と子どもでは、日常の中での気づきや閃きが比にならなそうです。新しい時代を担う子どもたちに期待したいですね。
今後イトーキからどのような製品が生まれることを期待しますか。

新田見:学習デスクというプロダクト自体は、子どもの成長を考える上で現在でも有効なアイテムだと信じています。ただ、そのカタチは時代と共に変化すべきです。低下気味の購入率を一気に引き上げる『みんなが欲しいと思う新しいアイテム』をイトーキ発で市場に発表できることを願っています。

SR:普遍的な要素と変化していくものがうまく融合すると、素晴らしい製品が開発されるのかもしれませんね。
最後に、新田見さんにとってジュニアデスクとは?

新田見:もともと家庭用家具に携わることを希望しイトーキに入社しましたが、そのきっかけは大学になっても使っていたイトーキジュニアデスクの存在でした。学習デスクの役割の中には、『机に向かう習慣をつける』『整理整頓を覚える』『個性を育む』など子ども側に関する役割だけでなく『親子の絆を深める』『親が与える喜びを実感できる』など、買い与える側に関する役割もあるのだと思っています。
学習デスクは『想い』の要素が強い製品です。製品の背景にある『人の想い』を、大事にしていきたいと考えています。

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